03

□COLORS
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 思い切り開けた左耳の穴。もう、どんなピアスをするかは決めてある。
 燃えるような赤。だけどそれは、髪からたまに覗くぐらいでいい。あくまで、秘めたる想いの証だから。


「え、浅浦お前ピアス開けたの?」
「ああ」
「こないだまでまっさらだったのに」
「前から決めてたことだから」
「つーか中3の3学期なんて。せめて高校に入ってからだろー」

 伊東がそう不思議がるのも仕方なかっただろう。だけど、何と言われようとも俺の決意は揺らぐことはなかった。冬休みが開けたばかりの1月9日、15歳の誕生日に開けた穴。まあ、この分でいけば高校入学までにホールは完成するだろう。
 ピアスを開けようと思ったことに深い理由はなかった。好きな人に「赤が似合うね」と言われた、ただそれだけの理由だ。俺は周りのみんなが思ってるよりも全然単純な男で、その思考と行動の仕方は年相応、中3男子のそのものだ。

「内申に響いても知らねーぜ?」
「今更内申も何もないだろう。それに、こないだの模試の結果を見てる限り、星港には十分点数足りてる」
「うっ、お前ってそーゆーヤツだよな」

 理科と国語が弱い、と書かれた模試の結果を思い出して伊東は苦虫を噛み潰したような顔になり、はいはい、どーせ俺は雅弘クンには敵いませんよーだ、などと卑屈になっている。こうなれば後は俺が何を言っても無駄で、時間が解決するのを待つしかないということはこれまでの経験で明らか。厄介なものには関わらないのがいい。


「しかしあれだなー、3学期ともなると、携帯持つヤツも増えてくるなー」
「ああ、そうだな」

 周りでは、携帯を持ち始めたばかりで浮かれた連中がやれアドレス交換などと言って紙を配り歩いている。俺の親は、高校に受かったら携帯を持たせると言っていた。伊東の親も同様の方針らしい。
 俺の家と伊東の家は2軒隣の近所だ。親同士が幼馴染みということもあり、物心が付く前からの腐れ縁と言っても過言ではない。その結果、俺の家と伊東の家は家族ぐるみの付き合いをしていて、片方の家の事情はもう片方の家にだだ漏れになっている。ま、同学年の長男を持った幼馴染み同士だ、教育方針とかで相談することがあるのも頷けなくもないけど。

「うちも未夏が携帯欲しいとか何とかって駄々こねててウルサイのなんのって」
「まあ、その辺女の子の方が進んでるっちゃ進んでるもんなー」
「塾と携帯を引き替えにするのもどうか、みたいな話もあるみたいだし。つーか俺こないだ母さんに相談された」
「それを受験生に相談するなっていう話だよなー?」
「全くだ」

 きっと俺が高校に受かって携帯を持つようになると、未夏はもっと五月蝿くなるだろう。兄ぃばっかりズルイ!とか何とかって。腐れ縁家族のおかげで実際4人兄弟みたいなものだ。4人中3人が携帯を持つようになると、もっと羨ましく思うようになるだろう。

「でも、うちは姉ちゃんいつもメールとか電話ばっかしててさ、忙しそうだけど」
「まあ、美弥子の性格だったら予想できなくも無いけど」
「俺はそういう子苦手だな」
「お前は「そういう子」だけじゃなくて女子全般が苦手だろ」
「そうだけどさ」
「そんなお前でも、高校に入ったら出会いがあるかもしれないし、人生何が起こるかわからないモンだ」
「ナニ中3で人生語ってんだよ。あー、ないない。出会いって、彼女とか?」
「彼女とか。人生懸けれるほどの子に出会えるかもわかんねーじゃん」
「人生懸けれるほどの子、ねぇ……」


 俺にとって「人生を懸けられるほどの人」、というのは今現在、俺に「赤が似合うね」と言ったその人。
 姉が電話で忙しそうにしているというそのうち半分は俺の所為であると、目の前で考え込むコイツは知らない。
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