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□奥村菜月の一存
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「さて、どうしたものか」

 菜月先輩は、考え込んでいた。

「ただの作品じゃつまらない。かと言って、冒険するほどMMPには力がない」

 菜月先輩が考え込んでいるのは数刻前、圭斗先輩から定例会の報告という形で説明がなされたことについてだ。
 向島インターフェイス放送委員会には、加盟している大学が月ごとで順番に作品を出展して、その作品を他大学の人にモニターしてもらうという活動がある。
 しっかり編集までしてある映像作品のところもあれば、ステージイベントの様子を録画したビデオのところもある。もちろん、ラジオ番組を制作するところまで大学ごとに色がある。
 向島大学放送サークルMMPの出展の順番が次に控えているということもあり、最近はその作品はどうしようかという話し合いがなされるようになった。

「菜月さん、ちなみに今月は緑ヶ丘だけど、聞く?」
「聞く」
「後に残しとくと面倒だし、さっさとモニターした方がいいだろう。じゃあ野坂、これセットして」
「はい」

 圭斗先輩から受け取ったMDをセットして、再生ボタンを押してやる。圭斗先輩が読み上げるこのMDの説明によると、他の大学には内緒で向島スペシャルとして特別版にしてあるんだとか。
 これはうちの大学と緑ヶ丘がサークルぐるみで仲がいいからこそ実現していること。と言うか、定例会の議長と委員長が圭斗先輩と緑ヶ丘の伊東先輩だからこそ可能な裏工作だったりする。
 スペシャル版は、その他の大学に配布している通常版と何が違うかと言えば、番組の内容自体は基本的に変わらないものの、内輪ネタやNG集で固めたボーナストラックが入っていたりする。そして、時によっては他大学に聞かせられないような1年生の冒険トラックなど。

「うーん、今回の緑ヶ丘のトラック1は無難かつ確実に攻めてきてるな」
「そりゃ、トラック1は高崎先輩と伊東先輩の番組ですから、非の打ち所を探す方が難しいですよ」
「ちなみにトラック3以降が向島スペシャル版トラックだから」

 やっぱり緑ヶ丘は全体的にレベルが高い。番組の構成やアナミキの技術、とにかくもろもろが。圭斗先輩が言った通り、トラック1の高崎先輩と伊東先輩の番組は、無難かつ確実。聞いていて、時間が経つのがとても早く感じる。やっぱり上手いなぁ。
 ただ、これに面白くない表情をしているのが菜月先輩だ。このトラック1の番組を聴きながら、菜月先輩の表情が緩むことはなかった。きっと高崎先輩に対するダメ出しを一生懸命探しているのだろうけど、それだけじゃないような。
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