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□ハイリスク・ファクター
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 携帯にあった不在着信の相手を確認すると、どうも悪い予感のする名前というのは少なからずある。
 今の場合、履歴に残る伊東一徳という名前が俺にもたらす一抹の不安は、何やら面倒なことに巻き込まれそうな予感。
 30分前にあった着信を憂いでいると、再び携帯が鳴り響く。手の平に伝わる振動は、まるで相手が俺を急かしているかのようにも思える。

「はい、もしもし」
『あートオル? 今大丈夫系?』
「ああ。バイト終わったし、少しなら」
『よかった、じゃあちょっと時間もらうな。俺がIF内で最も信頼を置くミキサーであるお前にだからこそ頼みたいことがあんだけどさー、』

 IF――向島インターフェイス放送委員会。その単語を聞くのは実に久しぶりだ。多分、その直下の組織である技術向上対策委員会で、俺たちの代が解散して以来だと思う。
 今もIF定例会の委員長として最前線で活動している伊東が俺に頼みごととくれば、恐らくそれはIF関係の厄介ごとの後始末だろう。正直、めんどくさい。
 2年の頃は俺も対策委員として最前線にいたとは言え、今はサークルにすらまともに顔を出せていないこの状態で、今更俺が何を出来る? 何をする必要がある?

「で、頼みたいことっていうのは?」
『そうそう、IFの機材のことなんだけどさー、』

 やはりか。
 面倒なことになったと思いながら、伊東の話を聞く。ただ、今はバイト終わりの街の雑踏。ところどころの単語が聞き取れない。

『で、そーゆーコトなんだけどさー、』
「ちょっと待て。そういう話なら、今度直接してくれないか?」
『今は?』
「今?」
『いやー、今定例会の真っ最中なんだって。トオルに時間があるなら来てもらえるかなーとかって。さすがに面倒か』
「……どっちにしても面倒なら、今行く方が楽だ」
『あ、来てくれる?』
「行くって言ってるだろ。15分くらいかかる」
『了解。待ってる』

 携帯をポケットに突っ込み、溜め息をひとつ。本来この後は大学に戻って麻雀大会の予定だったのに。
 ゼミの連中に「少し遅れる」と連絡をしないといけないことに気付き、携帯を入れたり出したり、要領の悪さに少し苛立つ。

「もしもし、美奈?」
『……お疲れ』
「大会だけど、少し遅れるから先やっといて」
『…バイト、終わってるはず……』
「IFの機材関係のことで定例会に呼び出された。下手したら時間がかかるかもしれない。如何せん議長が彼だけに」
『…わかった…トニーによろしく……』

 さて。
 伝えるべきことは伝えたし、あとはゼミへの手土産を食い尽くされないことと、厄介なことに巻き込まれないようにすることだ。
 美奈への電話の後ろでは牌を混ぜる音がしていたから、誰かがもう打ち始めているのだろう。ああ、早く向こうに行きたい。

「松岡君によろしく、か」
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