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□とある金曜日のウタ
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 どうしてうちはこんな場所で足止めを喰らっているんだ。

「はい、じゃあちょっとお話いいかなー?」

 12月上旬、とある金曜日の午前10時過ぎ。現像を依頼していた写真を朝イチでお店に受け取りに行った帰りのこと。駅の券売機で帰りの切符を買おうとしていたら、おはようございます、と声をかけられた。うちの目の前にいるのは白髪混じりの男。腕には「青少年さわやかパトロール」と書かれた腕章。

「今10時だけど学校は?」
「これからですけど」
「これから? 名前は」
「奥村ですけど」
「はい、じゃあ奥村さん、生徒手帳見せてもらえるかな?」

 どうやらうちは高校生か何かの授業サボりに間違えられて補導されかかっているらしい。うちが高校の頃は授業をサボるだなんていう考えがなかったから、まあ新鮮と言うか何と言うか。ただ、生徒手帳を出せと言われても、高校の生徒手帳なんてもちろん実家に置いてあるし、大学には生徒手帳なんか存在しない。

「生徒手帳ないです」
「ああそう、それなら他に身分の証明出来る物……って言っても免許もないしねぇ。困ったね、学校に連絡しなきゃなんだよね」
「いや、そうじゃなくて……」

 応対するのが面倒で必要以上のことを言わないのが悪かったのかもしれない。勝手にうちを高校生だと思い込んで話を進めていくパトロールの男にはもう付け入る隙がない。

「まあいいや、一緒に来てもらえるかな?」

 それだけは避けたいぞ。ええい、こうなったら最終手段だ! 取り出すのは、財布の中の学生証。もちろんその学生証には「向島大学」としっかり書かれている。

「これから大学で授業なんで」
「ああ、大学生さん!? ゴメンゴメン、ちょっと若く見えたから声かけちゃったよ〜、ゴメンね〜?」

 うちが大学生だとわかった瞬間、ちょっと高圧的だった男は手の平を返したような態度になる。大体、このうちをどこからどう見たら高校生に見えるんだ。悪いが、生まれてこの方約21年、童顔だと言われたことは無いぞ。
 しかも、この男に捕まっていたおかげで改めて切符を買おうとした瞬間、絶望的な音が動き出す。間違いなくこれは大学方面に向かう電車が発車した音だ。ああ、この電車に乗れれば2限には間に合ったのに。
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