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□プチプチディベート
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「うーん、」

 向島大学放送サークルMMP。このサークル室で一人の女が気泡緩衝材のシートを手に考え込んでいた。

「どうされました、菜月先輩」
「いや、これ」
「プチプチ、ですね」
「うち個人としては雑巾絞りでスカッとしたい派だ。だけど、1個ずつ地味に潰していくのも嫌いじゃないんだ」

 また菜月が下らないことを言い出したぞ、と彼女の隣に座っていた圭斗は無言で冷めた視線を左に向ける。野坂はそんな彼女にいっそ潰さないのはいかがでしょうと提案をするが、それならお前がストレス発散の標的になるぞと一蹴される。どうやら彼女は今、気泡緩衝材をどう潰してストレスを発散しようか、それだけで頭がいっぱいらしい。

「そうですね……さすがにそう毎回ローキックを受けるワケにもいかないので、ぜひプチプチを潰してください」
「だから、どうやって潰すのかを今考えてるんだろう! ったく、C言語は理解出来ても人の気持ちまではわからないヤツだな相変わらず」
「菜月先輩の気持ちは100年経っても理解出来ないですよ」
「理解出来ないんじゃなくて、理解しようとしてないんだろ」

 そう言って彼女は気泡緩衝材の角に手をやり、ひとつひとつ気泡を潰していく。どうやら雑巾絞りの要領で潰すのではなく、地味に潰していく方法を選んだようだった。サークル室に響く気泡の割れる音。幸い、今は誰かが番組を収録しているといった状況でもなく、室内に雑音があってもいい状況だ。

「……菜月」
「どうした圭斗」

 話しかけられても、その声のする方に目をやる事もなく。ただただ夢中になって気泡を潰す菜月に、圭斗はそれ以上何も言えず、溜め息混じりに正面を見る。

「ったく、用がないなら話しかけなければいいじゃないか」

 もちろんこの間もぷち、ぷち、と気泡が潰れる音がしている。圭斗が彼女に言おうとしていたことは、その気泡の音に対する苦情だ。何も今潰すことはないだろう、と。そもそもその気泡緩衝材はどこから入手してきたんだと問わずにはいられなかったのだ。

「圭斗先輩、プチプチの入手経路はおそらく菜月先輩がよく利用していらっしゃるCDショップの通販ですよ」
「例によって散財してるのか」
「以前部屋に上がらせていただいたときも、たくさんありましたから」

 何となくわかったような気がした気泡緩衝材の入手経路にも会計の立場してまたひとつ大きなため息を。部屋に溜まる気泡緩衝材の数だけサークル費をまた滞納する確率が上がっていくのかと。
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