03

□neighbor complex
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 大学という場所は、人付き合いを選べるから楽だと思う。
 「人付き合いを選べる」と言ってしまうと語弊があるかもしれない。ただ、気が合わない人とは付き合わなくてもいいのが楽だ。
 現に今、私の周りにいる人とは、長く同じ空間にいても苦にはならない。私がどう思われているかは抜きにして。

「まあしかし、今と変わらないんじゃ、結構苦労したんじゃないか? 高校までは」
「……高校はそんなに苦労しなかった……」
「中学までは苦労してたのか」
「……高校では、独りでいることを割り切れてた」

 私は徹に依存していたんだと思う。人に対して自分から声をかけに行くことも出来なかった私は、いつも徹からの声を待っていた。
 でも、中学に入ってからはそれも少なくなり、放課後の美術室で絵を描く以外は窮屈な毎日の繰り返し。
 美術室の窓からは武道場が見えた。どこか無意識のうちに剣道部の練習風景を目で追って、どれが徹、とかはわからなかったけど、響く竹刀の音をどこか遠いものとして眺めていた。

「お前、ナンダカンダで寂しがりだもんな」
「そういうワケじゃ……」

 私を子ども扱いして頭をくしゃくしゃっと撫でるリンの手は、懐かしさもあったけどやっぱり別物。
 同じセリフと一緒に頭をよく撫でてくれていた徹の手は、小学生当時のものだから今のリンとは比べ物にならないほど小さい。
 それに、撫で方もリンみたいにくしゃくしゃっとするんじゃなくて、どちらかと言えばポンポンってする感じ。あの感じが安心できて、好きだった。

「リン、彼女…とかにもそーゆーコト、した?」
「ああ。子ども扱いすんなって言われたからあまりしなかったが」
「・・・。」
「いや、誰にでもそういうことをするワケじゃないぞ」
「…私、子どもっぽい…?」
「子どもっぽいと言うには少し違うような気もするけどな」
「……そういうの、どういうときにするもの…?」

 するとリンはしばらく考え込み、こういうのは専門外だと吐き捨てるように言う。それでもちゃんと考えてくれる辺り、根はいい人だ。
 でも、過去の彼女とのことを思い出しているのかと思うとそれはそれで複雑な心境で。聞かなきゃよかった、こんなこと。

「まあ、オレなりの解釈だが、相手が可愛いって思ったり、守りたいって思ったときにするモンなんじゃないのか?」

 そんなコト聞くなよと照れるリンの頭を撫でたいって思うのは、私の中にそういった感情が渦巻いているからなのだろうか。人間の感情って、難しい。
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