03

□始まりのバショ、キミとボク。
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 リフティングに夢中だった少年の動きがピタリと止まり、こちらに向いて歩みを進める。まるで心で忠告した声が届いたかのようだ。ぺこりとまた頭を下げた彼は、俺の脇にあった荷物に手を伸ばす。

「スイマセン、何度もボール取ってもらっちゃって」
「あ、いや。お構いなく」
「結構上手いっすね」
「俺なんか全然だよ。ヘタの横好きと言うか何と言うか」

 水分補給をしながらも足はボールを転がすことは止めない。これは彼のクセのような物だろうか。

「ところで君、学年は?」
「中2です」
「ええっ!? ちょっ」

 それを聞いて思わず立ち上がって身長を比べてしまう。ヤバい、ひょっとしなくても俺の方が小さいんじゃね? ちきしょい、最近の中学生っつーのはこうも発育がいいのかよ…!

「そっちは何年っすか? 学校じゃ見かけないから高校生とか?」
「――だよな、やっぱりそう見えるよな」
「えっ、あっ」
「大丈夫、慣れてるから。こう見えても大学3年、21歳」

 いつも通り。手っ取り早い年齢証明手段は身分証明書の提示だ。

「あ、でもうちの担任のセンセなんかも小さいから特に驚かないと言うか」
「フォローどうも。で、サッカーは部活か何か?」
「あ、はい」
「課外練習?」
「何かグラウンド整備とかで3日間部活動停止になってて」
「へぇー、真面目だな。俺なら絶対遊びまくるのに」
「1日だけならともかく、3日開けると感覚も戻らなさそうだし。ま、親とかにはサッカーと同じだけ勉強にも一生懸命になればいいのにって言われるんすけど」

 俺も中学でサッカーをやっていればこういう風に真っ当な青春を過ごしたのだろうか。とは言えうちの中学にサッカー部はなかったんだから仕方ないっちゃ仕方ないと今では諦めきれるけど。
 たかが部活、されど部活。今しか出来ないんだからと思えるのもその渦中を通り過ぎてしまったから。高校のバスケ部だってサボり常連だった俺からすれば、こうして部活が休みの日にまで練習をするということがまず理解出来ない。

「そっちは?」
「え?」
「サッカー経験あるんすか?」
「俺は小学1年から専ら観る専門。体育でちょっとやったくらいかな。あと高校の時、部活の前にバレーボールで集団リフティングやっただけ。今はたまに趣味でフットサルをやってる」
「さっきボール返してくれるとき、結構上手かったから経験者かなーと思ったんすけど」
「いやー、違う違う」
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