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□君に捧ぐブルーサファイア
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「どうしたのカズ、珍しい」
万年遅刻魔と呼ばれた俺が仕掛けたサプライズのひとつに、待ち合わせ時間にぴったりきっちり間に合っている、というものがあった。普通なら人として当たり前のことなんだけど、それがなかなか上手く行かないものだ。
待ち合わせ時間の15分前には噴水の縁に腰掛け、目の前の本屋で買った適当な雑誌を読み耽っていた。音がいいとされるヘッドホンや、ちょっと気になったスマートフォンのページを折り曲げて。
「あ、慧梨夏」
「早いじゃん」
「たまにはそんなこともあってもいいだろ? 俺今日結構頑張った」
「うん、頑張ったね」
いつも部屋で見ているジャージにメガネといった様相ではなく、大学用の軽装でもなく、新調したという余所行きの服に身を包んだ慧梨夏は本当に可愛い。彼氏の欲目を抜きにしてもだ。
待ち合わせ時間に遅刻しなかったことに対して、被っているキャップの上からいい子いい子と頭を撫でられるのはまた妙な気分だ。そして雑誌を閉じ、買ったときの袋に戻して立ち上がる。
「それじゃ、行こうか」
「うん」
慧梨夏の右手を取れば、自然に絡む指。付き合い始めの頃はこうやって手を繋ぐのも恥ずかしくてそれこそ死んでしまうんじゃないかと思った。そりゃ今でも恥ずかしいけど、5年弱やってれば少し耐性もついてきた。
知り合いに会ったらどうしよう、といった考えもあった。特に高校時代は。
高校時代の慧梨夏は華があった。いや、それは今でもだけど、当時は校内でも特別目立つ存在で、高ピーが生徒会長をやってた頃の副会長としてかなり有名だった。
可愛くて、(数学以外は)頭も良くて、生徒会副会長で、女子バスケ部のポイントゲッターとなれば実に華々しい。それに比べて俺はどうだ。女々しいし、部活もサボり常習の万年ベンチだし、それと言って目立つ存在でもない。慧梨夏とはつり合わないんじゃないかって。
だけど、外で知り合いに会ったらどうしようという考えは消えた。高校を卒業する頃にはもう俺と慧梨夏のことはみんなが知るところだったし、冗談めいて結婚式には呼べよと言われたり。どうせそんな風に思われているならいっそバカップルを貫き通してしまえと。ある種の開き直りだった。
「ねえ、どこ行くの?」
「とりあえず地下鉄乗るから。向港線に乗るって言ったらわかるか?」
「港方面ってことは、水族館あたり?」
「正解。お前でも外のこと知ってんだな」
「失礼な。これでもこのエリアに21年住んでるんだよ?」