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□アフター「その男、単純につき」
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「ただいまー。悪いノサカ、後ろ通るぞ」
「あ、はい」

 サラダバーから菜月先輩が戻ってきた。その手には、器いっぱいの黄桃。それだけ桃が入っていれば肉に負けない甘い香りも漂うはずだ。菜月先輩のサラダバールールは「桃に始まり桃で閉める」。圭斗先輩曰く、1年生の頃から不変のルールだそうだ。

「菜月、チキン届いてるよ」
「あっ、ホントだ。村井サンありがとうございます」
「でも菜月さん、うまい棒レースの後なのによく食べるね」
「食べれるかなって思った。あと、せっかく来るなら肉を食べてサラダバーをつける方が圧倒的に安いじゃないか。うちは普段肉を食べないから、これは重要な機会だ。桃うまー」

 そう、菜月先輩はサラダバーだけを頼んだというワケではなく、しっかりと主食のガーリックチキンまで頼まれている。焼かれた肉の上に乗っかるガーリックチップスにご満悦の様子。

「僕には考えられないな」
「圭斗、やせ我慢しすぎたんじゃないか? もしくは燃え尽き症候群か」

 いただきまーす、と軽快にチキンにナイフが入る。ああ、美味しそうだ。前と横から漂う美味しそうな香り。俺にどうしろと言うんだ。このまま微妙にぬるい焼きそばやサラダばかりを食べ続けろというのもまた拷問。

「何か自分の体臭がもううまい棒臭くなってるんじゃないかと不安で仕方ない」
「はっはっは! ナニソレ、愛の伝道師サマの体臭がうまい棒とか面白すぎるんだけど」
「いやいや菜月さん、笑い事じゃないからね」
「でも確かに、俺たちはみんなうまい棒に囲まれてましたし、わからないだけかもしれませんね」
「そうだろ野坂」

 圭斗ならうまい棒臭くてもきっとイケメンだから大丈夫だよ、と村井サンが茶化す。確かに俺も圭斗先輩はどうあってもイケメンだと思う。でも自分がうまい棒臭いのはどうかと思う。どうする、電車の中で隣に座った人間がうまい棒臭かったら。

「言っても、僕ら3人で150本食べてるからな」
「そう考えたらよくやったよねみんな。すごいすごい」
「アンタがやらせたんだろ!」

 圭斗先輩と村井サンが言い合っている中、菜月先輩は黙々と肉を食べている。菜月先輩は食事の際、あまり喋らない。口の中に物を入れて喋るのは好きではないとか。ただ、目線はしっかりと向かいで言い争う先輩方を見ているから、話は聞いているのだろう。でも、淡々としたペースだ。まるでうまい棒レース中の圭斗先輩を髣髴させるアンドロイドっぷり。
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