エコメモSS

□NO.701-800
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■she's dead, but i'm not.

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「圭斗、ラーメンを食べに行かないか」

 久し振りに来たなという感じ。最近は夏休みだったこともあって、サークルに関係する人と食事をしたのは先輩方くらいだったなと思い返す。先輩方相手の値が張るステーキランチもいいけれど、久々に菜月さん相手のラーメンもいい。

「聞いてくれないか圭斗、これは事件で悲劇だぞ」
「どうしたんだい?」
「一応盆くらいは少し実家に帰ろうと思って戻ってたんだけど、その地元で食べたラーメンがまあ残念で。塩は塩でも魚介ベースよりも鶏ベースのスープの方がやっぱり好みだと再確認した」
「魚介ベースのスープもおいしそうだけどね」
「嫌いではないんだけど、後は察してくれ。具なのかダシなのかわからないけど、エビを丸一匹突っ込んでくれるなという話だ」

 菜月さんは、肉よりも魚の方が好きな印象がある。それでも塩ラーメンのスープにおいてはどうやら魚介ベースよりも鶏ベースの方が好みらしい。確かに彼女の大好物である学食の塩ラーメンも鶏ベースだし、僕が彼女といつも入っている店の野菜塩ラーメンも鶏ベースだった覚えがある。
 食事の話をしていると、虚ろな目をした野坂が物欲しそうに溜め息をついている。目の前で美味しそうな話をされるともれなく食欲が湧いてしまいます、と苦情をポツリ。バカ言うなとローキックが飛べば、あまりに空腹で痛覚すら麻痺したようです、と。野坂の空腹はかなり重症なようだ。お前は果林か。

「先輩方のラーメンテロは実に甚大な被害をもたらしました」
「お前は何を言ってるんだ」
「聞いてください菜月先輩。俺は今日の夕飯をこーたと食べるつもりでいたのですが、そのこーたがバイトなんてしてやがるじゃないですか。夕飯はいらないと言ってしまったのに外で夕飯を済ます予定もなく」
「やっぱりご飯欲しいってお母さんか誰かに言えばいいじゃないか」
「それがですね、例によって携帯の充電が切れてるんですよ…!」
「それをドヤ顔で言われても」
「こんなとき、携帯会社がMMP内でマイノリティだと充電も出来ずに彼女が死に絶えたまま俺も共に朽ち果てることになるんですよ」

 ラーメンを食べに行くなら俺も連れて行けと野坂が暗に訴えているのはわかった。と言うか、腹が減りすぎてちょっとキャラ崩壊してないかコイツ。普段、ラーメンラーメンとワガママの限りを尽くして連呼する菜月さんよりも今の野坂は相当面倒だ。さすがの菜月さんも今日の野坂の扱いにはちょっと戸惑っているようでもある。

「ははは、次こーたに会ったら殴る準備は出来てるぜ!」
「逆恨みとは言え、食の恨みはとんでもないな」
「何とでも言え律! 今の俺はお前をも越えるラブ&ピースで満ちてるんだ!」
「やァー、コワイコワイ」

 と言うか僕は中立として、野坂が陥落したらサークル内に神崎の味方が誰もいなくなるんじゃないのか。逆恨みで殴られてはウザドルの神崎だろうとさすがにちょっとかわいそうだ。軽い闇堕ちの様相を見せる野坂にさすがの菜月さんも匙を投げたようで、後は頼んだと目配せで全てを投げられる。僕にどうしろと言うんだ。とは言えこれ以上堕ちてもらっても困る。

「野坂」
「圭斗先輩だろうと今の俺は止められませんよ!」
「僕はお前の「彼女」を生き返らせることは出来ないけど、お前自身が死に絶えて朽ち果てるのを食い止めることなら出来る」
「それは――」
「”Dead or Alive.”」
「申し訳ございません圭斗先輩、俺は生きます」
「神崎を殴ってやるなよ」
「もちろんです! 先輩方と食事が出来るだなんて、むしろ感謝ですよ!」

 何という手のひら返しだ。ともかく、僕にはMMP内の力を均衡に保つ義務がある。第3のラブ&ピースなんて発生しようものなら、如何ともしがたい事態に陥るところだった。食事抜きに対する絶望で消えていた目の光もどうやら戻ったようだ。むしろ今は、来る食事の時間に向けての希望で輝いているようにも見える。何にせよ、平和が一番だ。

「さ、一件落着したところで、次の議題を詰めようか」


end.


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70000打リク
あーやさんより「MMPで「ラーメン食べに行こうか」な話」

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