エコメモSS
□NO.701-800
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■JUMP UP!欲求ピラミッド
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「じゃあ次行くよー!」
「はーい!」
今か今かと構える箸。水と一緒に勢い良く流れてくるのは白い束。時期としては少し遅めだけど、まだまだ夏だと言い張るよ。って言うか暑いからセーフでしょう。夏の風物詩であるそうめんを、どうせなら流しで楽しんじゃいましょうよという企画。
「もーらいっ! んー、おいしー!」
「おい果林、お前が上にいると残り全員が食いっぱぐれる」
「高ピー先輩、ちゃんとそれ相応の麺は用意してます」
「知るか。一番下に行け」
「高ピー先輩のケチ」
渋々レーンの一番下に回れば、そこから見上げる距離感だとか水の流れもまた風流だなあという発見。あくまで食が一番ではあるけれど、少しくらいならハンデをつけてもいいかな。
今日はMBCCの流しそうめん大会ということで、レーンの一番上ではいっちー先輩が麺の入ったザルを持ってスタンバっている。またいいタイミングで麺が流れてくるんだ。みんなの様子をしっかり見てるんだなあ。
いっちー先輩は食べなくていいのかなと思ったら、流してないタイミングでしっかりと食べているようだった。ネギやショウガ、ご丁寧にも薬味まで用意して。いいものがしっかり揃っている。
「今日の伊東は腹黒いな、自分だけちゃっかりしやがって」
「高ピー、果林とまともに戦ったんじゃ食いっぱぐれるからね。流しそうめんを楽しみつつしっかり食べるにはお世話するのが一番。それっ」
「そういうモンか……あっ、てめっ! わざと俺のタイミング外したろ」
「そして時にはこうやってみんなを弄ぶことも楽しいね」
いっちー先輩の不意打ちでみんなが見逃したそうめんがするりとこっちに向かってくる。それをすかさず確保してやれば、ごちそうさまです早くお次をくださいな。
「タカちゃん食べてる?」
「果林先輩。この辺は多分今からスタートですよ。全く流れてきませんからね」
アタシより少し上。とは言え全体から見れば下の方で麺を待っていたタカちゃんだったけど、だしつゆの入った器とお箸の出番は全くないまま現在に至っているようだった。それが何ともまあ可哀想に見えてきて。とは言えしょうがないよね、流しそうめんだもん。上の方が有利になる競技だし。
「でも今流れてきたよ。そんなに来なかった?」
「今のが初めてですね。流れてきたのにビックリして反応できませんでした」
「……もしかして、アタシ?」
「まあ、そういうことになるかと」
「ごめーん」
「まあ、今からですし。運動神経悪いんで反応できるかわかりませんけど」
そう言ってタカちゃんは箸を握り直すのだ。ナンダカンダで流しそうめんに対して気合いは入っているらしい。それなら、今まで上の方で食べ尽くしてきた罪滅ぼしも兼ねて、彼の戦場デビューをお膳立てしてあげよう。どうせなら派手にやった方がいい。
「いっちーせんぱーい! タカちゃんがひもじい思いしてるんでー! 下に届く感じで流してくださーい!」
「りょうかーい! じゃあいくよー!」
すると今度はするすると隙間なくそうめんが流れ、上の方にいる人が食べててもこっちに向かって白い帯がやってくる。やっぱり流しそうめんっていうだけあって、下まで流れないとね! 弱肉強食の世界だけど、たまの風流もいい。
「タカちゃん来たよ!」
「取れました」
「あっ、まだ残ってる。いただきまーす!」
そして思い出すのは、薬味の存在。自分だけ抜け駆けしていたいっちー先輩に少し分けてくださいよと頼み込めば、少しだけだからねと釘を刺されつつも分けてもらうことに成功。うん、味が締まっておいしい。
「タカちゃんおいしい?」
「はい。こうやって食べるのは初めてですけど、結構いいですね」
「タカちゃんもそうめんを食べることが出来たし……そろそろ本気出そっかな」
「えっ、果林先輩まだ本気じゃなかったんですか!?」
「アタシがこれくらいでおなかいっぱいになるとでも? これからはタカちゃんだろうと手加減しないからね!」
まだまだ麺はたくさん用意してる。そしてアタシには風流を楽しむ精神的余裕がある。風流の中にありながら、生きるための本能を刺激して。安心であることや、食糧を確実に確保できてはじめて次のステップに行けるモンだしね。それでも、みんなが食べ終わった頃に本気を出すんじゃ面白くない。だから、今日は思いっきりかき回すぞー!
end.
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70000打リク
七さんより「流しそうめんで果林無双なお話」