エコメモSS
□NO.701-800
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■雨天星空リロード
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「リン、やってる?」
「春山さん。そんなに暇ですか」
「それはお互い様でしょう」
9月もそろそろ中旬。星港大学の夏期休講はまだもう少し続く。夏期休講であろうと情報センターは解放されているから、スタッフも常駐している。とは言え講義期間中ではないから人などは少ない。
あまりの人の少なさからか、受付で待機しているはずの春山さんも暇を持て余してこっちに遊びに来ている。例に漏れずオレもネサフだの裏バイトのための作業だのをやってはいたが。
情報センターの仕事は主にこの部屋の機器類、パソコンやプリンターなどを使いに来る学生の補助、もとい監視役と言うのが適しているだろう。人がいなければやることもそうない。席や機器類のメンテナンスは解放前に済ませている。
「せっかく宇宙の日だってのに、生憎の雨とは何という不運」
「春山さんの日頃の行いじゃないですか?」
「リン、そんなこと言ってると来月A番オンリーにするけど」
「スイマセンでした」
オレであればサイエンストピックのニュースを読んだり、ゲームのことを調べたりするのに使うインターネットも、春山さんの場合は調べる事柄がまた違う。宇宙に関すること、こと宇宙開発の分野に興味関心のある彼女にとって、今日という日は心躍る要素が満載なようだ。
ただ、今日の天気は雨。5階の窓から覗く空は重く、暗い。夜と見紛わんばかりの。まだ2時台だというのに。この分だと夜も雨が止むことはないだろう。そう言えば、台風だの局地的な大雨がどうだのといったニュースも見たかもしれない。南北に伸びる国土の南は台風、北は強い低気圧に襲われているとのこと。
「受付だけはマジで勘弁してください」
「それなら余計なことは言わない」
「それが例え事実だとしてもですか。大層な言論統制ですね」
「しかし雨ヒドいな」
「随分さらりとスイッチですか」
「私の地元、記録的な大雨になって大変なことになってるってさっきテレビでやってた」
「ああ。春山さん、北の方の出身でしたね」
春山さんは湿気で味の変わった鉛筆をかじりながら、オレの手からマウスを奪う。新しいタブで開くのは天気サイト。どうやら故郷の状況が気になるようだ。テレビで見たというならそれでいいだろうに。
「宇宙の日どころじゃないですね」
「余裕だし。別に星空が見えなくたって思いを馳せることは出来る。雲の向こうのことを想うもよし、地上で次の技術について想うもよし。いろんな探査機の持ち帰った物の調査結果を調べるもよし」
「健康的な変態ですね」
そして窓の外を眺めれば、窓ガラスに付着した水滴に街の明かりやこの部屋の明かりが反射して軽く星空のようにも見える。空が暗いからこそかもしれない。ただ、1枚余計にフィルターを置いてはいるが。暗い空の上に、眩く瞬く光のシートを被せたような感じ。我ながら思う、「らしくない」と。
脇に置いていた裏バイト用のスコアは春山さんに拾われていた。そしてそれをさらりと眺めて言い放つのだ、お前も変態だろ、と。天気サイトの裏で待機しているのは音楽関係のページ。演奏技術のあれこれを調べるくらいはしてもいいだろう。それくらいには人がいないのだから。オレの仕事はあくまでも学生の補助だ。
「リン、天気リロードしれ」
「はいはい」
end.
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