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□宿る情熱のシークエンス
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 星港駅を出発して5分ですでに顔面蒼白、グロッキーの高崎を後目に後部座席ではどの班がああだこうだと楽しそうだ。班名簿を片手にきゃっきゃと盛り上がる会話に俺も耳は働かせて。視線は基本前に、時折左に。車の中で吐かれても困る。

「高崎、次コンビニ寄るぞ。何か気休めになる物でも買ってこい」
「頼む……」
「高崎クン車酔うの相変わらずなんだねー」
「体質だし、そう簡単に治るものでもないと思うよ。菜月ちゃんも酷かったし」
「議長サンは水とフリスクでゴマカしてたっけ」
「そうそう、すーすーして少し楽になるって言ってたよね」

 奥村さんの乗り物酔い対処法は、大量のフリスクを冷たい水で流し込むこと。こうすることで胃の中からの清涼感で気持ち悪さを誤魔化すという力技。それもまた胃に悪そうではあるけど、それでも乗り物酔いが少しでも楽になるならそれには代え難いとのこと。
 対する高崎の乗り物酔い対処法は、「極力ハコモノの乗り物に乗らない」というもの。高崎にはビッグスクーターがある。今日のことにしても奴は本来それを使いたかったらしいが、福島さんの「みんなで行こうよ」という言葉に折れざるを得なかったらしい。

 見かけた適当なコンビニに車を止めれば、よろよろとした足取りで店の中に入っていく高崎の姿に溜め息をひとつ。俺ほどのセーフティードライブでも酔うんだから、どうしようもない。そして思い出したように山口も車から飛び降りて店の中に駆けていった。

「福島さんは大丈夫?」
「アタシは大丈夫。飲み物も持ってきてるし」
「そう」
「石川クン、運転ありがとね。アタシ結構ムチャ言っちゃったのに」
「ううん、大丈夫。俺もモニターに行こうかなってちょっと思ってたし、福島さんからの誘いで踏ん切りがついた感があるから」

 今こうして合宿の会場に向かっているメンツはみんな、合宿の番組モニターに行こうとはうっすら思っていたらしい。だけど腰を上げるにはもう一押しが欲しかった。
 言い出しっぺは山口だった。星ヶ丘の後輩にモニターに来なかったらぶっ飛ばすと脅されたとか。とは言えインターフェイスでも微妙な立ち位置の自分だけで行くのもな、ということで前対策メンバーに声がかかった。
 これにまず福島さんが頷き、奥村さんと番組を聞く約束をしていた高崎が頷いた。俺は直前までどうしようか悩んでいたけど、成り行きで手伝った現対策の機材準備と、福島さんの「みんなで行こうよ」という言葉に首を縦に振った。
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