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□宿る情熱のシークエンス
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 向島エリアなんていうのは、星港市は国内でも指折りの都市だけどそこを抜けてしまえばそれはもう大いなる田舎だ。ビルばかりだった窓の外にしても、今はもう緑が広がっている。国道は微妙な混み具合。青看板の示す目的の町まではそこそこ。

「ちょっと混み始めてるかな」
「でも石川クン、時間には余裕を持ってきてるんだよね?」
「それはもちろん」

 カーナビの予定到着時間こそ、当初の予定よりも押しているけれど。こんな時、するすると車の隙間を縫っていけないことに対して二輪乗りの高崎に少し苛立ちが見える。

「ま、向こうも今頃夕飯だろうから、そんなに急ぐこともないし」
「今年もアイスの食べ放題ついてるのかな」
「野坂と果林が対策のトップの時点で付かないワケがねぇだろ」
「それに野坂クンには議長サンからの圧力もかかってそ〜、アイス付けないと捻り潰すぞ、なーんて」
「いくら奥村さんが甘いものが好きでもそこまではやらないだろ」
「いや、ありえなくはねぇな。菜月なら野坂を使ってアイス食べ放題を付ける方向に持ってくだろ」

 口寂しいのか、空になったパピコの容器をくわえたまま、高崎がもしも話を繰り広げる。その話を膨らませる山口にしても、面白がっているようだった。
 青年の家の夕食には、アイス食べ放題というオプションがある。一昨年の合宿にも付いていたから去年の合宿にも何となくつけたけど、去年の合宿では奥村さんが無双してた。
 今年の対策委員のツートップがIFでも指折りの大食漢である千葉さん(高崎曰く四次元胃袋)と野坂君(奥村さん曰くとんでもない甘党)ということでアイスは付けているに違いないという結論に落ち着く。
 俺たちのもしも話で行き着いた最悪のシナリオは、アイス食べ放題という言葉を文字通りに捉えた奴が馬鹿なことをしてインターフェイスが出入り禁止にならないか、ということだった。

「ま、それをやりそうなのが対策委員だってのがな」
「でも、対策委員だったら忙しくてそれどころじゃないだろうし、大丈夫だよ。果林ちゃんも野坂クンも常識はある子だよ」
「果林の奴は食うことに関しては常識も何もねぇから心配してんだろ」
「大丈夫でしょ、IFのトップだっているんだから。松岡クンの目が黒いうちは大丈夫でしょでしょー」

 結局はその王制に落ち着いてしまうのだから、認めたくはないけどその権威を認めなくてはいけないのかと。
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