エコメモSS

□NO.1201-1300
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■神様の言う通り

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「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な、て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」

 何もないところで指を右に振り、左に振っている高木の様子が面白い。その表情が何を占う様子でもなく、無表情だからだ。

「高木、お前は高速バスに当たるまで何度だってやるんだろっていう。「どれにしようかな」やるまでもねーべ!」
「おっかしいよね、何回やっても新幹線に当たるもんね。あっ、青春18きっぷも選択肢に入れよう」
「はいはい、何遍やっても意味ねーけどな」

 高速バスに新幹線、そして青春18きっぷ。高木とエージの会話の中に出てきた単語を拾う限り、高木がどの乗り物を使うかひたすら指を振って考えているようだ。
 そういや時期が時期だ。俺みたく一人暮らしでも実家が近いとか、エージみたいな自宅生には無縁な帰省ラッシュ。特に高木は向島エリアから遠く離れた紅社にまで帰らなければならないという事情だ。

「高崎先輩もこのバカに何か言ってやって下さいよ」
「つか何やってんだ?」
「帰省手段を選んでるんすよ。夜行バスに決まってるのにどれにしようかなで当たるまでやめない気なんす」
「バスとかめちゃ辛いな。何時間かかるんだ?」
「9時間くらいですかね」
「うわっ」
「新幹線だと速いですけど高いですし、やっぱり長い期間帰ってないと割に合わないと言うか」

 バスに9時間とか拷問か。俺なら何に乗っても酔うのに違いないなら新幹線でパパーッと帰ってしまいたい。すると高木は、夜行バスはずっと寝てればいいから狭いことを除けば悪くないと言う。
 自分が降りるのは終点の駅だから乗り過ごす心配もない。ただ寝ていればいつの間にか目的地に着いている。あとは座席運に見放されなければいいんですけど、というのが切実な話らしい。

「俺もやってみっかな。どれにしようかな、天の神様の言う通り、鉄砲撃ってバンバンバン、もひとつ撃ってバンバンバン」
「新幹線ですね。エイジもやってみてよ」
「どれにしようかな、天の神様の言う通り、かもしかもしかもしかもしか」
「やっぱ新幹線かー」
「つか「どれにしようかな」ひとつ取っても地域差出て面白いっていう」
「ああ、エイジ言語文化に興味あるんだっけ」
「まあな」
「でもよ、これって言語文化っつーよりは民俗学じゃねぇか?」

 そうとなれば特に向島エリア外のサークルメンバーが来るのを待つ態勢に入る。特に、山羽出身のLや緑風出身のハナなんかが来てくれりゃ儲けモンだ。

「おっ、ハナちょうどいいところに」
「はーい、ハナに用事ですか高崎先輩」
「どれにしようかな、ってあるだろ。あれを歌ってみてくんねぇか」

 ハナは「えー、何でですかー」なんて不思議そうな顔をしているけど、話は歌い終わってから。

「どれにしようかな、神様の言う通り、今はわかりません、1・2・3・4・5・6・7・8・9・10、わかりましたありがとう、だるまさんが転んだ」

 ただ、今までのどの歌とも違うバリエーションが出てきたことに俺たちはまた呆気に取られた。

「……どーすんべ高木、また新しいパターンが出たっていう」
「でも前に奥村先輩がこれをやってたときは「だるまさんが転んだ」とは言ってなかったけどなあ。10は数えてたけど」
「同じエリアでもやっぱ違ってくるんだっていう」
「で、高木。お前は結局何で帰るつもりだ?」
「はい、このままだと埒が開かないんで夜行バスを取ろうと思います。取れればいいですけど」
「取れるかどうか、花占いでもしてみるんだな」


end.


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書いているうちに話がそれた好例。タカちゃんの帰省手段を考える話のはずがどれにしようかな話にw
この話のポイントは高崎が「どれにしようかな」って歌ってるところだと思う。個人的ツボなだけだけど。
自分の地域じゃない歌い方だとどこの歌詞で指をどう振ってるのかよくわかんなかったり。

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