エコメモSS

□NO.1201-1300
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■折れた心に寄り添って

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「はー、わかっちゃいたけど苦情ばっかだったなー」
「ゴメンL、私が今日やろうって言ったから」

 定例会終わりのビルの中、ガラス張りのエレベーターを待ちながらも溜め息が漏れる。
 彼氏や彼女がいる面々からは当然だけど、そうじゃない奴らにしても悲しいパーティーをやるとかバイトで忙しいんだとクレームが入った。
 イブに会議を開くのは彼女がいない議長の僻みだなんだと言われもない因縁を付けられ、会議の最初の方は本当にクレーム大会だったんだから。ま、わかっちゃいたけどしょうがないよな。

「いや、直は悪くねーよ。最終決定権を持ってるのは俺だし」
「でも」
「いーっていーって、気にすんな。あ、今日は何食う?」

 定例会終わりに直と飯を食いに行くのもお決まりのコースになっていた。クリスマスイブという日にもそれが適用されるのかどうかは少し怪しかったけど、いつものように話は振って。

「でも、今日はどこも人がいっぱいだろうね」
「だよなー、やっぱ厳しいか。やめとく?」

 イルミネーションで彩られた街はいつもよりもキラキラと輝いている。そんな中を俺なんかが歩くのははっきり言って不相応だ。まあ何て言うか、ちょっと惨めになりそうで。
 やってきたエレベーターに乗って、1階に着くまでの短い時間で行き先を決めるのがいつものやり方だった。今も目の前にやってきた箱の扉が開いて、シンキングタイムが始まった。

「L」
「ん?」
「あ、あのさ、良かったらだけど……星港駅のイルミネーション、見に、行かない…?」

 下っていくガラスの箱から何となく西を見てやると、実際そのイルミネーションの光なのかわからないけどより一層光が瞬いているような気がした。
 やっぱり女子はそういう場所が好きなのだろうか。それでも会議中に苦情を受け続けて折れかけた心にはその誘いが染み入るようにじんわりときて、断る理由もなかったし、いいよと返事をした。

「うー、寒っ」
「ホントだね」

 1階に降り立ってビルの外に出れば、凍えるほどの寒さになっていた。厚いピーコートを着てマフラーをしてもまだまだ寒い。肩も竦むだけ竦んで痛いくらいだ。隣を歩く直がジャケットしか羽織っていないのが信じられない。

「直、それは寒いだろ」
「昼は大丈夫だったんだけどな。Lみたいにもっと備えてくればよかったよ」

 直はいろんな人からイケメンだと言われているけど、どこからどう見たらイケメンに見えるのか俺にはよくわからない、と言ったらまたいろんな方面から怒られるだろうか。
 確かに女子としては身長も高い方だし言動が紳士的ではある。見た目も中性的だから女子大の中なら王子様のように見えるかもしれない。だけど、俺から見たら普通の女子なんだよな。

「あ、ちょっと待って」
「どうしたの?」

 不思議そうな顔をした直に、鞄から取り出した真新しいチェック柄のマフラーを巻き付けた。これで見た目にも寒くない。

「L、これって」
「さっき買ったヤツだから安心して。タグも店で切ってもらってるし」
「そういうコトじゃなくて」
「あー、新調しようと思ったんだけど、見てて寒かったから。それ、あげるからちゃんと家までして帰れよ、風邪ひくし」

 我ながら何てコトをしてるんだと思う。こういうことをして格好つくのは圭斗先輩くらいだろう。でも寒そうだったし。無意識の言動に理由を求められても。

「あのさ、L」
「ん?」
「星港駅まで、歩かない? 地下鉄、人でいっぱいだろうし」


end.


++++

Lがマフラーを買うか買わないかみたいなことを言っていたようですが、どうやらマフラーを購入した様子。でもしばらくは古いマフラーのままだろうな!
そしてイブに行われる定例会では議長のLにはクレームがバシバシ飛んでいたらしい。うん、がんばれえええ
これからも学年リセットまでは加速していくL直のあれこれ。学年リセットまではくっつくかくっつかないかのスレスレでやっていきたい、ぜ!

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