エコメモSS

□NO.1201-1300
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■Et tu, Brute!

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 街にはクリスマスソングが流れ、イルミネーションもキラキラと瞬く。LED照明の普及がこんなにも人工的な冬を作り出すとは。どいつもこいつも浮かれ模様か。
 ――なーんて、俺こと野坂雅史ががやさぐれるのも仕方がないと思っていただけるだけの事情はちゃんと存在している。決して独り者の僻みとかそんなんじゃないんだ。

「持つべき物は心の友やよ」
「俺はお前の心の友になった覚えはないけどな」
「でもノサカもボクのおかげで寂しいクリスマスせんでええんやし、もっとボクに感謝するべきやよ」
「まあ、すごく虚しいけどな」

 向島大学情報知能センター4階のPC演習室に、人はまばら。向島大学は、一応昨日で今年の授業は終了して、今日から年末年始の冬期休暇という体だ。
 ところがどっこい、さあ冬休みだと思った瞬間ヒロからのデスメールだ。「課題やらんとアカンから付き合って」だ? 自業自得じゃないか。授業に来ない、来てもロクに授業を聞かないのが悪い。
 内心はどうでもいいけど、仮にヒロが留年したところで3年になった俺に対してまたブツクサを文句を言ったり課題を手伝えなどと言ってくるのは目に見えてる。自分のためだ、あくまで。

「基本的には自分でやれよ」
「ノサカいけずやね」
「どぉ〜しても無理だと思った時だけ助けてやる」
「じゃあお願い」
「留年してしまえ」

 向島大学の理系の学部、と言うか社会学部以外は2年終了時で成績の足切りがある。必要単位数に届かなければ即留年という制度があるだけに、ヒロでもさすがに焦っているらしい。
 俺は2年春学期終了時点でそのボーダーをゆうにクリア済み。だけど授業に来ないことも多い、来てもちゃんと受けてるのか受けてないのかわからない様子のヒロはまあ、お察し。
 さっきも言ったけど、今になって焦るのは自業自得に他ならない。最初から真面目にやってれば、と言うか普通にやっていればまずそんな事態に陥るワケがないのに。
 逆にどうやったらギリギリで推移できるんだと真面目に聞くと、ノサカには一生かかってもわからんよ、と何故か逆ギレされた。どうしてヒロと絶交していないのか、自分を不思議に思った瞬間だ。

「あー、ボクエラいなー、休みまで出てきて勉強しとるとか」
「普通にやってれば休みに出てくる必要はないけどな」

 することがネットくらいしかないこの部屋では、ある程度の暇潰しがなければ耐えられない。それをわかっていたからこそ持ってきた携帯ゲーム機を取り出し、イヤホンを差す。

「ちょっとノサカナニゲームやっとるん意味分からんよ!」
「俺は課題やる必要もないし、暇を潰して何が悪い」
「隣でゲームやられたら気散るから違うことするべきやよ」
「わかった」

 それに一理あると頷いてしまうところが俺の甘いところなのかもしれない。いや、今日大学に来てる時点でわかりきっていることだけど。
 ゲームをしまって、代わりに取り出したのは応用情報技術者試験のテキスト。ヒロを置いて、俺は次のステップへ向かおうじゃないか。

「どしたんノサカ枕なんか取り出して」
「ほー、お前にはこのテキストが枕に見えるか」
「厚さがちょうどよさそう」
「てか俺に構ってる暇があるなら課題やれよ。1教科だけじゃないんだろ?」
「さすがノサカやね、3つか4つあるよ」

 まさか、その3教科か4教科分の課題に付き合わされるのだろうか。最終的な成績でそれまでの課程が見えないのって地味に問題だよな。どうする、もし俺とヒロが同じ評価だったら。

「もしノサカよりいい成績取れたらノサカのおかげやしケーキくらいなら奢るよ」
「じゃあ、俺よりいい成績が取れなかったら手を煩わせた謝罪の意味で俺にケーキ奢れよ」
「ノサカそれは裏切りやわ」


end.


++++

多分ね、よっぽどのことがない限りヒロがノサカ以上の成績を取るなんてことは難しいんじゃないかなと思うよ! つまり最低でもS評価だぞ!
世間的にはノサヒロは親友だと思われているようだけど、どうやらノサカのヒロに対する感情がそろそろ怪しい。まあ、勉学においてはね、仕方ないね。
そろそろMMPメンバーもノサカに同情し始める頃ですね。りっちゃんですらノサカには同情するぞ! ま、自分にャ関係ねースけど。

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