エコメモSS

□NO.1201-1300
60ページ/110ページ

■ラブジェニックにはまだ早い

++++

「スマンな、この部屋は人を招くことを前提としとらん。座布団などはないが適当なところに座ってくれ」
「お構いなく……」

 いつものメンバーでたまにはゆっくりお酒でも、という話にはなったのだけど、時期が時期だけにお店はどこも予約でいっぱい。年末年始にそういうことをするなら早々に準備するべきと思い知る。
 みんな自宅生だしさすがに宅飲みは迷惑だろうと諦めかけていたら、リンが思い出した家庭の事情。お父さんが出張、お母さんが夜勤で不在の日が1日だけあると。

「石川が来るまであと2時間か。買い物がスムーズに行きすぎたな」

 初めて来るリンの家、初めて入るリンの部屋に私が緊張しているのは言うまでもなく。閉じきって、他に誰もいないこの空間に2人きりだなんて。きっと、2時間が長く感じると思う。
 吸い殻が何本か乗った灰皿やパソコン、本棚いっぱいに詰められた本はジャンルを問わない。その他にはCDや、キーボード。キーボードはゼミ室の物よりずっと良さそうだし、高そう。
 リンが上着を脱ぐだとか、お茶の入ったグラスを持ってきてくれるとか。そういうひとつひとつに鼓動が高鳴る。普段とは違う場所だからだと思うけど……ちょっと、尋常じゃない。

「美奈」
「えっ……」
「どうした、オレの家だからと遠慮することはない」
「ううん……」

 好きな人の部屋で彼と2人きりという状況で、ドキドキしない女子はいる? 確かに私はこういうことに特別ウブだと思う。でも、好きな人と2人になって緊張するのは、特別なことではないと思う。
 2時間以内に何を期待するでもない。意味深な行動はしないよう心がけて。チラリとベッドに目をやってしまった瞬間の妄想に、頭の中で戒めを。何と言うか、拷問のようにも思えてしまって。

「ちょっと待ってろ」

 そう言って部屋を出たリンが戻ってきた時、手にしていたのは体温計。手渡されたそれが意味するところは、きっとそういうことなんだろうとは思うけど。

「具合は、悪くないけど……」
「そうか、少し顔が赤いような気がしたが。もしかして、そういう化粧か? この件は石川には黙っておいてくれ。お前はそういうのも見分けられないのかとまた不必要に説教されてしまうからな」

 顔が赤く見えたなら、きっと鈍感のリンにも分かるくらいに赤面していたのかもしれない。でも、そういう化粧だということにしておいたのは、都合が良すぎると自分でも思う。
 確かにリンは鈍感だしどこか少しズレているけど、そういう部分で見せてくれる自然な優しさが嬉しく思う。自信が強いとか、確固たる信念があるというところも好きだけど、結局はこういうところ。

「大丈夫……徹には、黙っておくから……」
「悪いな」
「そもそも、2時間も部屋で2人きりだったと知れた時点で……その先は、想像するのも恐ろしいけど……」
「突飛な妄想で下手をすれば殺されかねないな」
「……!?」
「あ、まあ、何だ、アイツなら妄想で勝手に暴走しかねんという意味でだな、オレがお前にどうこうするとかではないぞ。2時間あれば手も出せるがそういう意味で連れ込んだとかでは」
「大丈夫、私はリンを信頼してる……」

 本当はどうこうされてもいい、リンにならどうこうされたいとはとても言えないけれど。
 あと2時間弱。この部屋で徹を待つ間、どうしていようか。買ってきた物で料理でもさせてもらえれば気晴らしになるのだけれど。


end.


++++

この話のリン美奈を一言で言えば、「中学生か!」というこれに尽きるドキドキリン美奈回。いや、中学生の方が進んでそうだ。
美奈さんはこれまで男性とのお付き合いの経験はないのですが、まあ、雑誌とかでいろいろ記事を読んではいるので以下略。
美奈の反応に少しは動揺してしまったらしいリン様、最後は心なしかセリフも長いしその情報イラネwってのも混ざってますね。何だよ「2時間あれば手も出せる」って

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ