エコメモSS

□NO.1401-1500
100ページ/110ページ

■既定路線こそシンプルに

++++

「俺が酔うの知ってて車に乗せたからには、よっぽどの事情なんだろうな」
「現地で盛り上がればお前ならビール飲みてえって絶対言うだろ。保険かけてやってる俺の気遣いじゃんか」
「ふーん」

 クソねみィ中、飯野に引きずられるままクソあちィ空の下に駆り出された。何の目的で俺を拉致ったのかと問えば、せっかく人が勉強しようとしてんだから水を差すなと。
 奴に最も縁遠い単語が出てきたことに対しては、この暑さで気が狂ったかとしか思えない。飯野が勉強? 世も末だ。とは言え、机に向かって勉強をするワケでもないらしい。

「さ、ついたぞ」
「――って、丸の池公園じゃねえか。こんなトコで何を勉強するって」
「ゼミのレポートのネタになるかと思って。俺の領域なら座学よりフィールドだって安部ちゃんが言ってたから」
「何で俺を付き合わせた」
「俺ひとりだったら勉強のポイントもわかんないだろうし高崎に締めてもらえって安部ちゃんが」
「俺の了解なく何言ってんだあの教授は」

 黒幕は安部ちゃんか。ま、安部ちゃんに対してはこれをネタに出席の1回でもおまけしてもらうことにしよう。飯野の研究テーマはイベントに関すること。祭好き、そして大祭実行委員らしいテーマだ。
 イベントというからには企画した本人たちだけじゃなくて外部の人間に楽しんでもらうことが第一だろう。そして、どのようにして実際のイベントが行われているのかをまずはその目で見ること。

「――で、まずはいろいろ見て歩くってことか」
「そゆコト。今日は学生のターン」

 この時期の丸の池っつったら、星ヶ丘か。こういうところで知り合いに会うとめんどくせえ以外の何物でもないが、星ヶ丘ならそんなに人脈はないし山口にさえ見つからなきゃ大丈夫だろう。

「あっれ、高ピーじゃん!」
「やあ、高崎」
「伊東、圭斗。お前らがこんなトコで何やってんだ」
「ん、それはどちらかと言うと僕たちが聞きたいね。ちなみに僕たちは朝霞君の激励だよ」
「あー、朝霞っつーことは定例会か」
「そだね。レッドブル差し入れして。高ピーは?」
「俺は飯野がレポートの材料集めてるっつーんで付き合わされてんだ」
「へえ、レポート。頑張るね」

 まさかの遭遇もあったが、奴らと合流はせずに飯野とこのイベントを遠巻きに見ていた。飯野は多分小難しいことを考えずに雰囲気だけを体で感じているのだろう。一応携帯でいろいろ撮影してはいるようだ。
 大音量の響く夏空の下、開放的な雰囲気。ビールを飲みたくならない理由がなかった。最初に飯野が言っていた、盛り上がってくると云々というところが現実になりそうで我ながら単純だと。
 ただ、ここでビールが飲みたいと言ってしまうと奴の思うツボじゃねえかと。このバカに最初からすべてを見透かされているという、複雑な感情が渦巻く。ニュアンスとしては少し異なるが、近い単語を出すなら「屈辱」だろう。

「高崎、ビール飲みたい」
「お前がかよ。つーかお前ドライバーじゃねえか」
「今日はもう雰囲気だけ。帰りは運転してくれ、免許あるだろ。で、次に見に行く祭も決めてんだ」
「まさかそれにも付き合わす気じゃねえだろうな」
「神様仏様高崎様!」
「ゼミの活動っていう体で付き合わすなら、出席の1回でも分けてもらわねえと動く気にはならねえな」


end.


++++

飯野が何でもない時に勉強するというまさかと、いち氏&圭斗さんと遭遇するというまさかが重なってしまった。見に来てたのね。
そもそも高崎が星ヶ丘のステージを見に来るということもなかなかに違和感の取れない事象だと思うの。
まあ、こういうのもアリかなと思いました。このときステージでは星ヶ丘の放送部のみなさんがステージをやってるんだと思います。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ