エコメモSS

□NO.1401-1500
101ページ/110ページ

■ミラー・ヒドゥン

++++

「やっぱりいるんだな、殺しても根絶出来ないクズってのは」

 そう言って石川はブラウザを閉じた。どうせ奴のことだ、ネットでの炎上事件を傍観していたとかそんなところだろう。お前も十分殺したところで根絶出来ない性根の悪さだと思うが、それは本人もわかっていることだろうから敢えて言うことはしない。

「……徹、今日はどんな炎上…?」
「いや、今日は人の炎上を傍観してたとかじゃなくて妙なのに現在進行形で絡まれてて」
「ふっ、常日頃人の不幸を面白がっているツケが来たか」
「……大丈夫…?」
「まあ、運営に通知はしてあるし相手の別アカも追ってるからな。何か動きを起こしたら即晒してやる」

 どうやら石川は、己の身に降りかかる火の粉を払おうとしているようだった。趣味で描いている絵をウェブで公開することもあるらしいが、どうやらその関係。登録しているSNSでその、殺しても根絶出来ないクズに絡まれている、と。
 正直オレからすれば、お前は常日頃から人の炎上を傍から見ているのだから、ケースごとにどう対応するのが適切かといったシミュレーションも出来ているはずだろう、と。何より、既に運営に通報した上で相手の出方を窺うその表情は、決して温情を知らない性悪そのものだ。

「まあしかし、この狸の本性を知らずにケンカを売るとはな。まあ、ウェブ上では致し方ないことなのかもしれんが」
「そりゃウェブ上では好青年してるからな。無駄に叩かれる理由を作ってどうなる」
「……ただでさえ、徹はhiddenの部分が大きいのに、ウェブ上なら尚……」
「ジョハリの窓か」

 ジョハリの窓は、コミュニケーション心理学の領域でよく見るモデル。美奈の表示するブラウザにはそう書いてある。自己をどう公開し、または隠蔽するか。各々が無意識にやっているだろうそれを、石川は現実でも仮想でも意図的に、かつ大袈裟に行っている。
 オーバーアクションであるがために逆に言えばわかりやすいのだが、それは奴がオレたちに対してはある程度開放の窓を広げているからに他ならない。いや、誰に何を公開すべきかというのを明らかに選択しているのだろう。この男は実にわかりやすいサンプルかもしれない。

「言うほどhiddenが大きいか?」
「……とても、大きい……それも、大体が悪事……」
「言ってくれるな」
「悪事……は、少し、言い過ぎた……正確には、捻くれた理論……」
「大差ないような気がする」
「どちらにしても、徹が秘密の窓に逃れるなら、私たちも、浄玻璃の鏡を持つ必要がある……」

 石川の一挙手一投足に至るまで、基本オレたちは自分に向けられる悪意の有無を疑わねばならない。ただ、オレたちは現時点で奴の言動に含まれる善悪を見極める術にはある程度長けている。ウェブ上の連中にはないアドバンテージだろう。

「ところで石川、お前はどんな絡み方をされとるんだ?」
「俺の描いた絵をグッズ化して商売してやがったからそれを指摘したら逆切れされるっていう、よくあるヤツだ」
「本当によくあるパターンだな、つまらん」
「お前こそ人の不幸を楽しんでないか、リン」
「お前の不幸は蜜の味だ」
「残念だったな、むしろ俺はこの機会を楽しんでる。俺も、ポーズだけは閻魔の裁判だな」
「……浄玻璃の鏡は、亡者を罰する物ではなく、生前の罪を見せて反省を促す物……」
「もちろん、反省もしてもらうさ」

 ――亡き者にした後に。
 口角を吊り上げ、次はどうしようかなーと再びブラウザを開く石川の顔と言ったらそれはもう、開かれた性悪としての顔だ。


end.


++++

久々に星大組オリジナルメンバーの話なんだけど、今期の石川のテーマは忘れかけていた悪さを取り戻すというところがあるのかもしれない。
ジョハリの窓と浄玻璃の鏡の響きが似ていたというだけのよくあるダジャレ回。でも石川が亡き者にするとか言うとあまりシャレにならないね、ウェブ上だけに。
石川の悪さにはリン様も美奈もたま〜についていけなくなることがあるよ! ……そう考えたら美奈はよく石川と小3の頃から友達やってるな、って石川さん美奈には優しかったw

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ