エコメモSS

□NO.1401-1500
105ページ/110ページ

■非対称ドッペル

++++

 夏合宿で使う音源を探すという目的が一致してアオとやってきたCDショップは、都会だけあっていちいち大きい。どこに何があるのか探すのも一苦労。
 アオはBGMに使えそうな曲を、俺はバイトの時に教えてもらって気に入った曲を探しにやってきた。ただただきょろきょろする俺は田舎者丸出し。実際そうだけど。

「私はインストの曲が欲しいから向こうに行くけどミドリ、どうする?」
「えっ、こんなに広いとはぐれそうだしアオについてくよ」
「敷地内から出なければ出会えると思うけど」
「わかんないじゃん」

 そうやってアオについて奥の薄暗いジャズのコーナーに入っていくと、ジャズというジャンルに俺が持つ「大人」とか「夜」みたいな雰囲気がもややんと増すなあって。
 慣れない空間にきょろきょろしていると、隣から漏れる溜め息。鋼のアオが珍しい。心配になって尋ねてみると、BGMが難しい、と。アオでもわからないことがあるんだなあって。
 情報センターで見覚えのあるCDもあるなあと何となく周りを見渡していたときのこと。その場所で見知った姿がある。それも、男の人と一緒だ。もしかしてデート現場!?

「やァー、ミドリー」
「ちょっ、冴さん! 急に声かけないでくださいよデート中なんじゃないんですかあ?」
「ハハー、何で血の繋がった兄弟とデートになるンすかネ」
「えっ?」

 バイト先の先輩、冴さんと一緒にいる男の人はどうやら冴さんの双子の弟さんらしい。冴さんは弟さんの買い物に付き合ってるんだけど、試聴の時間が長くて少し退屈してるとか。
 でも、冴さんがいるならちょうどいいやと思ってしまった自分もいる。実は、こないだ教えてくれた曲がどのCDに入ってるのかっていう情報がすっぽ抜けてたから。もう1度教えてもらおう。

「あー、それは律のが詳しいスよ。元々律の所有物だし。りーつー、出番スよー」
「何スか冴、人が気分良く視聴してるっテのに」
「私のカワイイ後輩が、律に聞きたいことがあるっテさ」
「へェー、星大の1年で。冴とはバイトが一緒」

 冴さんが俺の素性を説明している間にアオは試聴機のヘッドホンを外し、冴さんの弟さんにぺこりと頭を下げている。もしかして知り合いなのだろうか。世間って狭いなあ。
 そんな風にやんわり考えていると、アオから弟さんが向島の2年生だと告げられる。インターフェイスの夏合宿にも参加するらしく、それなら願ったり叶ったりとアオも弟さんに相談を持ちかけたい雰囲気。

「それくらいならお安い御用スよ。ところでミドリ、この残虐な姉にイジメられてねースか」
「律、このピースフルな冴サンのどこが残虐なんスかね」
「あ、冴さんはそんなに怖くないですよ」
「ってェーと、別に怖い人がいる、と」
「あっ」
「言ーってやろ言ってやろ、怖い人たちにチクったろー」
「わーっ! 冴さん勘弁してください! 律先輩曲選びたいんでお願いします!」
「ミドリの方は時間かかんないんで、アオの方を先に診断しやすわ。ちょっとその間冴の相手おねげーしャす」
「えー!? ちょっとー!」

 冴さんを置いて律先輩はアオと一緒に別のインストコーナーへ消えていった。と言うか冴さんて弟さん相手には残虐なのか……まあ、想像出来なくないところが何とも言えないけど。
 気付いてしまったんだけど、もしかして、冴さんを押しつけられてますよね俺! まあ、いいんだけどさ。とりあえず、2人の用事が終わったらすぐに見つけられる場所にいよう。


end.


++++

土田双子の遭遇がまさかの星大1年生が最初になるという罠。まあでも、冴さんと関わりのあるキャラは限られるもんなあ。
アオミドのコンビも地味に好き。キツキツのアオとゆるふわなミドリのバランスがかわいい。かわいいので正義。
そして蒼希が悩んでいたのは圭斗さん相手のBGM。圭斗さんと組むミキサーは必ず通る道だぞ!!w

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ