エコメモSS

□NO.1401-1500
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■宙(そら)翔ける翼で

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 とうとうこの日が来た。星ヶ丘大学放送部の一大イベント、丸の池ステージ。星港市丸の池公園で2日間にわたって行われる。集合時間にはまだもう少し早い。コンビニで物資調達を。
 とりあえず飲み物は必須でしょでしょ〜とソフトドリンクの棚を眺めれば、手に取るのはスポーツドリンク。真夏の空の下だから、倒れようなら大問題。
 しばしドリンク陳列棚を見ていると、目に飛び込んでくるのはウチの班のプロデューサーを連想させる物。ヤメテヨネ、こんなところでまでプレッシャー与えてくんの。
 レッドブルだなんて縁起でもない。ステージが近いとかラジオドラマの台本書いてるときとか。鬼の朝霞Pが愛飲しているそれが、今日の彼がこのステージに懸ける物を想わせる。

「あれっ、こんなのあったっけ」
「それはつい何日か前に新発売したヤツ」

 独り言のつもりが、後ろから振られる答え。振り向けば、ウチのデキるディレクター様が仁王立ち。まっすぐ新発売したアルミボトルタイプのレッドブルに手を伸ばし、カゴに入れる。

「つばちゃんそれ買い出し?」
「Pへの差し入れでもいいし、自分で飲んでもいいし。どっちでも的な」
「ふーん、じゃ、俺も買ってみよーっと」

 それぞれの買い物を済ませて改めて班の集合場所に向かうと、木に背中を預けて腕組みの朝霞P。険しい顔で閉じた目が、昨日からあまり休めていないことを物語っていた。

「朝霞クーン、お〜は〜よ〜」
「朝霞サーン、生きてるー?」
「ステレオで呼ぶな。聞こえてる」

 起き抜けの水を飲むように、ごく自然に朝霞クンが飲んでいたのはこないだ新発売したばかりのそれ。と言うか、俺たちが知ってて朝霞クンが知らないはずなかったか、この時期だしね。

「何だ、朝霞クンもレッドブルのボトル持ってんじゃん」
「レッドブルがどうかしたか」
「ううん、新しいの出たじゃん。だから俺とつばちゃんも買ってみたんだよ〜、朝霞クンへの差し入れにしてもいいねって」
「いや、班員に気遣わせるとかP失格だろ。それに、自前でまだ持ってるから心配無用だ」
「朝霞サン、がさす〜」

 それじゃあこのレッドブルは自分たちで飲もっか〜ということに落ち着いたけど、Pへの気遣いじゃなくてネタのつもりの差し入れだったら受け取ってくれたのかな。
 そして、それから少し遅れてゲンゴローがやってきた。集合時間には間に合ってるんだけど、1年生なのに一番遅かったことに対して大袈裟にぺこぺこと頭を下げて。何はともあれこれで朝霞班全員集合。

「あっ、朝霞先輩コンビニでこんなの見つけたんですよ、レッドブルの330mlボトルですって」
「お前もか」
「えっ」
「いや、山口と戸田も同じ件をやってたんだ」
「でもレッドブル見ると朝霞先輩の顔が浮かぶんですよ。それでちょっと焦りましたしコンビニで」
「うん、朝霞班あるあるだネ」

 本来エナジードリンクは白目剥きながら働くための物じゃなくて、遊ぶエネルギーを絞り出すための物だって聞いたことがある。だとすると、俺たちがそれを飲むタイミングは今なんじゃないかって。
 手元には、朝霞クン本人の飲みかけと新品を含めて5本のレッドブル。俺たちが欲するのは無敵の機動力と、どんな逆境も飛び越えることの出来る翼。今日という日を楽しむんだ。

「朝霞クン、みんなで景気付けにレッドブルで乾杯しよ〜よ。ヘタに円陣組むより朝霞班ぽいし」
「何がどうして「ぽい」のかはわからないけどな」


end.


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昨日、目に飛び込んできたレッドブルの画像を見て、これは今日この日の星ヶ丘でやらねばいつやるんだと……ねえ。罪な朝霞Pである。
命の前借りと称されるエナジードリンクだけど、遊ぶためのエネルギーを絞り出すのだとすれば、それは楽しいよねえ。
お酒の楽しみ方にも少し通じるところがあるとおもうの。エナジードリンク談義はまたいつかやりたい。

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