エコメモSS

□NO.1501-1600
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■日付のない夏だから

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 夏合宿の班打ち合わせが終わり、そのまま流れで飲もっかーとなるのも割と自然だった。しょうがないよね、夏なんだもん。次の日の朝のことなんて考えなくていいし。しょうがないしょうがない。

「タカちゃん、今日はどこに行く?」
「やっぱりスーパーですかね。コンビニだと高くついちゃいますし」
「ですよねー」

 なんて言いながら、駅前のコンビニはスルーして。タカちゃんが住んでいるのは星港市の郊外で、ベッドタウン的な町。自転車圏内でもスーパーがいくつかある。
 タカちゃんの住んでいる町を歩くのにも慣れた。歩くと言うか、自転車の2人乗りで駆けることにも。聞くとタカちゃんは、エージともたまにこうやって買い物に出ているらしい。

「ビールー、ビールー」
「果林先輩ご機嫌ですね」
「やっぱ夏はビール飲みたいよね。あと焼き鳥なんかがあれば最高」
「あ、いいですね」
「タカちゃんビール飲めないじゃん」
「まあ、そうなんですけどね」

 スーパーの前で焼き鳥の実演販売をしてる移動車がいたりすると、拷問だなって思う。もし何かの間違いで今から行くスーパーに焼き鳥の移動車がいたらどうしよう、絶対買っちゃうよ。

「あ、信号ですね」
「あーもう、もうちょっとだったのに」

 赤信号で止められたまま、タカちゃんの肩に手をかけて。いつもより高い視点だから遠くまで見渡せる。信号の奥に見えるスーパーの前に、誘惑の気配はあるかなあ。

「あれっ、果林じゃん」
「ちょっ、朝霞P先輩! こんなトコで何やってんですか! いよっと」

 灯台もと暗しじゃないけど、まさかのまさか。遠くを見渡してたら近くに罠があった。先のファンフェスでお世話になった星ヶ丘の朝霞P先輩がどうしてこんなところに!?

「いやいや、こっちのセリフだし。果林、家この辺じゃなかっただろ――って、ゴメン、俺としたことが空気読めてなかった。デート中か」
「あの、いっちー先輩から定例会で何を吹き込まれてるか知りませんけど、純粋にMBCCの後輩ですからね! 夏合宿の班打ち合わせ帰りですー」

 タカちゃんが「?」を浮かべて置いてけぼりにされてることに気付いたのか、朝霞P先輩が自分の素性を説明しだした。定例会に出てる星ヶ丘の3年で、住んでいるアパートがこの辺にあるということなどを。
 言われてみれば、星ヶ丘大学自体がこの辺なんだから星ヶ丘の人と遭遇したって全然おかしくはなかった。逆に、通学に45分かかる緑ヶ丘のタカちゃんがこんなところに住んでるのが変わってるくらいで。

「ゲンゴローもアタシの班で、アタシとペアなんですよ」
「おっ、マジか。アイツどう?」
「ラジオはまだ慣れないみたいですけど、よくやってくれてますよ。向島のりっちゃんがいろいろと教えてくれてますし」
「そうか、それなら学祭のステージはもっといろんなことがやれるな! 果林、源をよろしく頼む」
「いーえー」
「あっ、ここで会ったのも何かの縁だしうちか山口の店で飲もうかこれから」
「えっ」

 緑ヶ丘なら部屋を散らかされることも店で倒れて迷惑かけることもないだろうしと朝霞P先輩があれよあれよと話を進めてしまう。さすがコミュ力でIFを生きてる鬼のP先輩だなあ。

「山口の店は焼き鳥が美味しくてさ」
「行きますっ!」
「果林先輩」
「だーいじょぶだいじょぶ、財布のことならお姉さんにまっかせっなさーい、って言うかご飯を加減すれば人並みに収まるでしょ」
「あ、そういや果林はめちゃ食うしカズが言うには高木君もめちゃ飲むんだっけ」
「あの、伊東先輩から何を吹き込まれてるかわかりませんけど、言うほど飲みませんよ」
「……タカちゃん、それはツッコミ待ちか何か?」
「えっ」

 帰りは自転車も押して帰らなきゃね、と酔い醒ましの散歩も予定に組み込んで。通りがけのコンビニで食べ物とお酒を買って帰るんだ。日付のない夏だから。しょうがないしょうがない。


end.


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星ヶ丘の場所はどの辺かな、と考えたときに、思いがけずタカちゃんのおうちから近くなったのでこういうこともアリだと思いました。
朝霞Pはラジオの活動も好きっていうのとそのコミュ力のおかげではみ出し者認定されてるし、初めて会った人でも割とすぐに仲良くなれるタイプだなあと。
そういや果林の班ってゲンゴローがいたねと。書きながら気付いたけどこういう偶然が生まれるとすごくうれしい。

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