エコメモSS
□NO.1701-1800
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■嵐去るマーチ
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「川北、カレンダーを捲ってくれ」
「はーい」
林原さんに言われて月捲りのそれを1枚めくれば、大きく数字の3とある。もう3月かあ。そう言えば、日が沈むのも結構遅くなってきてたよなあ。
世間はすっかり春になりつつある。大学も今は長い春休みで、情報センター的に言えば閑散期というヤツだ。利用者も少なければ、センターの開放時間も短くなっている。
今日の開放時間は9時から4時まで。前回も同じだけの時間をここで過ごしたけれど、結局人が1人も来なくて林原さんといろいろな話をしていた。
「林原さーん、もう3月ですってー」
「そうだな」
ホワイトボードの2月の予定を消しながら、林原さんは何かを思い立ったように受付のマシンを操作して、事務用フォルダを開いた。
ディスプレイの上ではワードファイルが立ち上がろうとしている。何のファイルなのかはわからないけど、今日はヒマじゃなさそうだ。
「3月と言えば、のんびりと成績を確認しに来る者もいれば、下旬には履修登録で繁忙期を迎えるからな。そう悠長にもしておれん」
「そうなんですねー」
「川北、今表示しているファイルだが、日付だけ今年の仕様に直して3部ばかり出力してくれんか」
「はーい」
言われるままそのファイルと向き合えば、情報センター新規学生アルバイト募集の案内とある。へー、情報センターでも人を募集するんだなあ。
でもよくよく考えたら俺も学生課にあった張り紙を見て来たんだから、募集はするか。なるほど、俺が見た紙の原本はこのファイルだったのか。
「へー、今より人を増やすんですねー」
「何を言っとるんだお前は。4年がいなくなるんだから、最低でもその分の補充をせねばなるまい」
「4年生? ああ、春山さん……えー!? 春山さんっていなくなるんですかー!?」
「ああ見えてあの人は卒業することになっている。真っ当な就職をするつもりは未だにないらしいが」
情報センターって言ったら春山さんと林原さんのゴールデンコンビが牛耳っててっていうイメージだったけど春山さんって卒業するの!?
いや、まあ、確かによくよく見ればバイトリーダーの証である青い腕章も林原さんがしているし、次期バイトリーダーは誰がいいかとも春山さんからは聞かれてたけどさあ。
林原さんは清々すると言いながらホワイトボードに3月の行事予定を書き込むけど、俺はまだまだ気持ちが追い付かない。受付の主がいなくなってこれからどうなるんだろう。
「その辺はお前と土田がカバーする他あるまい」
「そうですよねー、って林原さんは!?」
「オレは現状維持でB番主体のシフトだ」
「えー、林原さんもA番に入りましょうよー」
「それは構わんが、オレがA番に入ると面倒なことになると春山さんから聞かされとらんのか」
「聞きましたけどー、やっぱりその辺はバイトリーダーがあれこれしましょうよー」
そして、ホワイトボードの上をコツコツと滑るように動いていた林原さんの手が19日の欄、卒業式と書いたところで一旦止まった。
そこからいくつかの欄を数えて3月下旬、その界隈でマーカーを持った右手がうろうろとしている。林原さんの次の一手が見えなくて怖いだなんて言えないよなあ。
「よかろう、直近の繁忙期は3月下旬の履修登録だな。川北、お前がB番を1人で切り盛りしろ。この1年でお前がどれだけやれるようになったか見せてもらおうか」
その意図するところは、どれだけ性質の悪い利用者が来て脅されようともオレは絶対に助けないぞ、ということだと思う。
「生意気言ってスイマセンでした」
「わかればいい」
「今思うと、春山さんって怖いけど偉大だったなー」
end.
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ロッカーとかに春山さんが隠れてて、「川北ァー、誰が怖いってー?」とかって出て来てもおかしくない情報センターリンミド回。
バイトリーダーはリン様に変わっていて、それでもプレッツェルはまだもう少し残っていて、春山さんもあと何回かは来るんだろうけどそろそろガチでお別れ。
そうなったときに一番影響するのはミドリや冴さんじゃなくてナンダカンダリン様なんじゃないかと思う。
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