エコメモSS

□NO.1701-1800
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■解けない連立方程式

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 バイトが終わって携帯を見ると、懐かしい人からメールが来ていた。指定されたいつもの飲み屋に向かうと、その人は部活を引退してから何ら変わらない姿でアタシを迎えた。

「よう、戸田」
「急に何ですか、朝霞サン」
「何となくな。最近どうだ」
「どうって、何ら変わりなく」
「いや、俺が今聞いてるのはプライベートな話じゃない。部活は、どうだ」

 聞くだけ聞いて、朝霞サンは次の注文をしてしまう。正直に言えば、答えにくいところではある。そうやって、考える時間をくれてるんだろうなとは思う。
 代替わりで朝霞サンと洋平がいなくなった旧朝霞班は、ステージをやるには壊滅的な危機にある。ディレクターのアタシとミキサーのゲンゴローだけじゃどうにも。
 きっと朝霞サンはその辺の心配をしてくれていると言うか、気掛かりなんだろうなと思う。朝霞サンは今でもまだ部活のことが意識から抜けきっていないというのは洋平からチラッと聞いた。

「新しい幹部は例によって屑です」
「だろうな、日高が選んでんだ」
「アナとPがいないんですよ絶望的に」

 前々からわかっていたそれを実際に口に出すと、だんだんと苛立ちが募ってくる。無意識に人差し指が激しくテーブルを打っていた。

「白河が何かあったら声かけてくれとは言ってくれてるんですけど、言ってもアイツもミキサーだしマッチしなくて」
「白河? ああ、アイツか。確かに、ミキなら源もいるしな」

 白河というのはウチの部活の中でも特に平和な班にいるタメのミキサー。白河の班は出来るだけ争いには巻き込まれたくないっていうスタンスで代々やっている班。
 インターフェイスの活動にも出て来ることがあって話す機会がまあまああったけど、そんなに悪い奴ではない。幹部の肩を持つでもなく、流刑地を突き放すでもなく。

「戸田、浦和はどうした」
「朝霞サンからその名前が出るとか、変な感じですね」
「定例会の引き継ぎで顔を合わせた。宇部の仲介があったけど、アイツは俺に敵意剥き出しだったな」
「でしょうね」
「旧宇部班……いや、今は柳井班か。柳井にキレて班を飛び出したって聞いたぞ」

 旧宇部班のAP・浦和茉莉奈、インターフェイス的に言えばアナウンサーのマリン。そのマリンの動向を聞かれれば、ウチの班に入れてくれと頼み込まれたのは事実としてある。
 そりゃあアナウンサーの能力もプロデューサーとしての能力もちょっとはある。発展途上とは言え1人で2パートを賄えるとなれば喉から手が出るほど欲しい。でも、何て言うかさ。

「朝霞サンを否定されると、どうも」
「そりゃ俺をあんだけ敵視してんだから、そうなるだろうな。お前だって宇部を敵視してただろ」
「そうですけど、圧倒的な力に守られた温室育ちのお嬢様が、手段なんか選んでられない場所でそれでも何とかやってやろうとしてたそれを否定してひっくり返そうとしてんですよ」
「いいか、戸田。俺も宇部ももういないんだ。それに、根っこの部分は同じだ」
「根っこ?」
「より高いレベルのステージを、見てる人に楽しんでもらえるステージをやりたいっていう想い。もっと言えば、ステージが好きだってだけの話だ。違うのは、どうこの部活の腐った体制と戦おうとしてたかだけだ」

 あの色惚けババアの能力を認めてないとは一言も言っていない。能力があるからこそ、それだけの能力がありながらどうしてあの屑日高の右腕に甘んじてるのかってのが納得行ってなかった。
 朝霞サンもあの人ももういないって言うけど、それでもアタシの中には朝霞サンが、マリンの中にはあの人がいる。表面に浮き出た捻じれは解消される気がしない。

「戸田、もし浦和が何か行動を起こしてきたら、宇部の影を抜きにして考えてやれ」
「朝霞サン、る〜び〜おかわり」
「しれっと俺に被せるな」


end.


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星ヶ丘の次世代はどうにもこうにもナノスパ比で重い話から始めなければならないのがねえ。ワケありな部活という感じがするね!
星ヶ丘勢は緑ヶ丘勢と違って店飲みメインって感じで贅沢だなあと思うけど、MBCCの宅飲みは規模がアホみたいだし頻度がまず違うだろうからね。あと洋平割もデカい気がする。
白河大信という、また別の方面ではマロと呼ばれる2年生ミキサーについてはサッカーの代表戦か来年度の話とかで触れたい。

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