エコメモSS

□NO.1701-1800
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■仲人やるのもラクじゃない

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 意外と言えば意外だった。まさかタカシからメールが来るなんて。しかもその内容が、相談に乗ってほしいと。
 春休みもミキサーの練習をしてるなんてタカシは熱心だなあとか、俺なんかをまだ頼ってくれるのかと勝手にしみじみしてたんだけど、呼び出された場所が大学でもない。

「スイマセン伊東先輩わざわざ出て来てもらって」
「いーって気にすんなよタカシ! で、相談って?」

 待ち合わせ場所は星港市内、繁華街となっている駅の地下広場。ここはちょっと歩けば何でも揃う町。対策委員が会議場として使うチェーンのカフェもあるし、デパートも電気屋もある。

「えっと、ホワイトデーというイベントに乗ってみようかと思いまして。ここは彼女さんのいる伊東先輩に相談するのがいいなと」
「へー、お前も隅に置けないな! で、どんな子?」
「どんな子って言うか果林先輩ですけどいつもの件は無しでお願いしますよ」
「そんな早口でまくしたてんなよー」

 いつもの件というのは俺と高ピーがよく言う「タカシと果林は付き合ったらいいんじゃね?」みたいな煽りのこと。実際いい雰囲気だし仲もいいし、お似合いだよなーみたいな。
 ――とまあ、事あるごとにそうやって煽ってたらタカシも果林も警戒しますよね。で、ちょっと何か言おうとしたらそういう意味がなくたって先に封じてくるんだから。

「わかってるよ無制限の時のだろ? お前の誕生日も兼ねてたヤツ」
「はい、それです。あと、ゼミ合宿のときにも2回目のバレンタインねー、と何だかんだでいろいろもらったのでさすがに2回分のお返しをしたいと思いました」
「わかった、そういうことなら大船に乗ったつもりでいいぜ!」
「さすが伊東先輩、頼りになります」

 タカシが言うには、中高一貫の男子校ではバレンタインやホワイトデーといったイベントには縁がなかったとのこと。男子校でもやる人は学内外で勝手にやってるらしいけどこの情報は慧梨夏には伏せとこう。
 そんなこんなで初めてのバレンタインを経験したタカシは初めてのホワイトデーをせっかくなら楽しみたいと。これはアレですね、この2人の輝かしい未来へのお膳立てですよねー! そうか、俺が仲人か!

「果林先輩の好みがわかんないってのもありますし、質とか量とか」
「果林の普段の感じからするとグレードは高ピーに求めて、量とか手作り感は俺に期待してる感じだから、タカシは気持ちさえあれば果林は絶対喜ぶよ」
「そうですかね」
「タカシが果林のことを想ってお返し選んでる光景を見せてあげたいくらいだもん」
「勘弁してください」

 たどり着いたショッピングビルには、やっぱりと言うか当然と言うか、ホワイトデーギフトのコーナーが組まれていた。この中に1人で突入する勇気はなかったです、とタカシが立ちすくむ。
 行かねーと何も始まらねーぞとタカシの腕を引いて一歩そこへ踏み出してやる。俺がしてやれるのはここまで。後はお前の心意気だ。俺もそうやって現在に至ってるんだぞ。
 あーヤベーなこれ、写メって高ピーにメールしてーなーちきしょい。でもそんなことしたらタカシ絶対キレるよなー、タカシって絶対キレたら怖いもんなー。

「伊東先輩、これなんか可愛くないですか?」
「おー、いーじゃん星形キャンディ! 可愛い可愛い!」
「じゃあこれと、あとどうしようかなー」

 キャンディに「あなたが好きです」の意味があるなんてことは言ってやらないけど、マシュマロを選ぼうとしたら果林に大事なのは食べ応えだーとか適当なコトを言って阻止してやらないと。仲人やるのもラクじゃない。


end.


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いち氏の悪ノリ以外の何でもないタカちゃんのホワイトデー戦記。いやまあアレよ、この2人の師弟関係がこんなところでもげふん
最近じゃクッキーやマシュマロだけじゃなくてマカロンとかパウンドケーキとかいろいろありますね。見てるだけでおいしそう。
あんまりタカちゃんで遊びすぎると後が怖いというのは何となく察するところの話。こういうタイプの子ほど怖いみたいなヤツね。

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