エコメモSS

□NO.1701-1800
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■幻のサヨナライド

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「この時期のセンターが繁忙期だというのはアンタが1番理解しているはずだが」
「細かいこたいーだろ、ナンならボランティアで臨時スタッフやってやってもいいぞ」
「わー、春山さんがいてくれるなら百人力ですよ林原さん!」
「川北、お前は黙ってろ」
「冴ー、コーヒー淹れてくれー」
「りょうかーいス」
「淹れんでいい」

 この繁忙期に、こないだ大学を卒業して現在はフリーターとなった人が何をしに来やがった。遺産のプレッツェルを引き取りに来たと言うのなら話は別だがそういうつもりでもないのだろう。
 今日は全学年の履修登録期間で、なおかつ明日は入学式。ただでさえバタバタする時期だというのは留学のために休学した年も含めて4度ここで春を迎えたこの人が知らんはずはない。

「で、何をしに来た。と言うかまだ向島にいたのか」
「さすがに部屋は引き払ったぞ」
「引っ越しの準備を手伝わせておいてどの口が言う」
「卒業生が大学に来ちゃいけないっつー決まりはねーだろーが」

 春山さんの卒業後の進路は相変わらず謎に包まれていた。真っ当な就職活動は早々にドロップアウトしていたし、その後についても遊びほうけていた印象が強い。
 青山さんに訊ねてみても知らないの一点張り。それどころか、芹ちゃんのことを何か聞いたらどんな情報でもいいからちょうだいとまるでいなくなった猫を探す勢いで詰め寄られるのだから。

「ナンヤカンヤ向島からは出ることになったから最後にツラ見に来たんだろーがよ」
「ようやくですか、清々します」
「春山さん、これからどうするんですかー?」
「リゾート施設で小銭稼ぎながらふらふらすることにした」
「へー、リゾートですかー、いいですねー」
「そうだろー」

 最後にもうひとわしゃ、と春山さんは川北の髪をわしゃわしゃと触っている。最後にもうひと揉みと魔の手は土田の胸にも伸びる。そうなると、オレはこの人と物理的距離を取らねばならん。

「青山さんがアンタと連絡が付かないと喚いてましたけど」
「卒業してからそこでちょっとバイトしてたんだ。山の中だったし和泉の着信だのメールだのは敢えて無視した」
「想像には難くないです」
「だろ」

 すると、川北が「リゾートって言ったら海を想像したんですけど、山なんですねー」などと髪を触られながらも真顔で言うのだ。
 リゾートと聞いて海を最初に想像したのは恐らく生まれ育った環境にあるのだろう。川北の出て来た長篠エリアは海のない内陸のエリアだ。

「海は憧れなんですよー」
「オレは山のリゾートで森林浴というのも乙だと思うが」
「林原さんは海育ちですもんねー」
「や、山と一言で言ってもまた種類があるンすよ」
「冴も山浪だし内陸だなそういや」

 各々のリゾートに対するイメージをぶつけ合い、泊まりがけのリゾートなど夢のまた夢だと悟る。そもそも今は繁忙期。大型連休も近付いてはいるが、そんなときに出かけたくもない。

「結局、アンタはどこの山に」
「長篠だ」
「えー! 長篠のどこですか! ひゃー!」

 思いがけず出てきた自分の出身地に興奮する川北をよそに春山さんは淡々と地図を表示し、この辺だと指を指す。すると川北がさらにひゃーひゃーと喜ぶのだから、きっと実家近くなのだろう。

「春山さん俺の実家結構近いです! 車で1時間くらいです!」
「マジか! 1時間なら本当に近いな!」
「あ、自分B番入りやーす」
「えっ、冴さーん?」
「ミドリ君の実家から1時間なら会いに行けちゃう距離じゃん! リン君俺の閑散期に入ったら一緒にリゾラバしよ!」
「何故オレがわざわざこの人に会いに行かねば――……ん?」

 ちょっと待て。1人、2人、3人、4人。4人? 土田、川北、春山さん、うん。……増えとるな。

「和泉、どこから湧いてきた」
「やっと見つけたよ芹ちゃーん!」
「じャ、男性陣であとよろしくお願いしやーす」
「わー! 待ってください冴さん俺もB番に入りますー!」
「海外も含めていそうなトコ全部回ったけど、やっぱここに落ち着く辺り芹ちゃんだよねー!」
「帰れ和泉!」
「……2人まとめて出ていけ!」


end.


++++

謎に包まれていた春山さんの進路が明らかになったものの、ブルースプリングは歪みない歪みっぷりの青山さんである。
そんな青山さんの進路は旅行代理店とかだろうと考えているので世間の大型連休なんかはまさに繁忙期なんだろうなと。
はっ、春山さんと青山さん、地味に繁忙期重なってたりするんじゃないか…? これ、一波乱ありそうだけどここでリセット!

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