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□邪魔者は腹の中にいる
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 微かに聞こえ始めた車の音が、だんだんとこちらに近付いてくる。坂を上って見えた車体はシルバーのスターレット。ヴァレンティーナと名付けられた圭斗先輩の愛車だ。
 運転手側のドアが開き、圭斗先輩は歩をこちらに向けられる。菜月先輩と俺の存在を確認して浮かべられた笑みは、いつものように美しい。

「ん、待たせたね」
「圭斗先輩おはようございます!」
「遅いぞ圭斗!」
「失礼。だけど、最初に5時だと言っていたのは菜月さんじゃないか。30分の誤差についてはどう説明しようか」
「ノサカだ」
「すまない、事情は察した」

 それで察していただけてしまう辺りが俺のこの悪癖が常態化してしまっているということで、反省すべきなんだけど、何度でも言うけど病院に行って治るなら紹介して欲しい。
 僕も何か飲み物を、と圭斗先輩は自販機に小銭を呑ませ、いつものように緑茶のペットボトルを購入された。食事ということだけど、飲み物が要るほど車内が長丁場になるのだろうか。

「ん、それじゃあ乗って」
「あの! 申し訳ございません、俺も飲み物が欲しいので買ってよろしいでしょうか」
「ったく、早くしろ」
「まあまあ。菜月さんは助手席にどうぞ」
「お邪魔します」

 ちっちゃいペットボトルのレモンティーを手に、そそくさと圭斗先輩の車に乗り込む。さて、これからどこへ行くのだろうか。

「ん、行こうか。30分押してるから、ピークにぶつからずに入れるといいんだけど」

 圭斗先輩の車にこうして菜月先輩と一緒に乗せていただくと、後部座席から眺めることになる運転席と助手席の光景が近くて遠いものとして隔たれているような気になる。
 それが嫌だということではなく、俺はこの場にいないものとして、ただ背景としてお2人の姿を眺め、会話を聞いていたいと思う。サークルでのお二方とはまた違う面が見られて楽しいのだ。
 車内では他の人の目がないからか、菜月先輩も圭斗先輩もサークル室で見るより雰囲気が柔らかく感じる。サークルでの立場などは関係なく、より友人らしく映るのだ。
 圭斗先輩は時折俺に話を振って下さるけど、俺の存在は本当にない物にしていただきたいのだ。それを言うのは実におこがましいのだけど。

「もーももーも桃缶ー」
「菜月さん、分別はつけるんだよ」
「うちを何だと思ってるんだ」
「こと甘味に関しては見境がないからね」
「それは後部座席にも言っておくんだな」
「――だ、そうだよ」
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