03

□邪魔者は腹の中にいる
5ページ/20ページ

 サラダバーで各々の食べたい物が机の上に揃い、メインのプレートはまだだけどひとまず村井サンの音頭でいただきますと手を合わせた。

「いやあ、菜月で慣れてるつもりだったけど野坂も結構アレだね、お兄さんビックリしちゃったよ」
「その……アレとは」
「サラダバー、初っ端から食うねってこと」
「そうですか? お前の普通は人の普通ではないと圭斗先輩からお叱りを受けたので控えめにしてみたのですが」

 それのどこが控えめだ、と桃をうまうましながら菜月先輩がチクリ。焼きそばとカレーライスとサラダと唐揚げとポテトとポテトサラダじゃないか。ごく普通だ。
 それこそ慣れていると仰った菜月先輩の方が明らかに異質だと思う。初っ端から桃缶(黄桃)だなんて。いや、確かに美味しいけど普通はデザート枠じゃないか。

「若いっていいよねえ。お兄さんなんて言ってるけど4つも違えばおじさんだよ」
「そんな! 何を仰いますか!」
「そうですよ、ダイさんでおじさんなら村井おじちゃんはどうなりますか」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度か!」
「桃うまー」
「菜月はダイとマーさんに全く興味ないからね」
「うん、知ってた」

 下級生をしている菜月先輩の可愛らしさたるや…! はっ、いけないいけない。今の俺は完全に怪しい奴じゃないか。

「菜月が変わってなくてね、俺も嬉しいよ」
「あの、菜月先輩がサラダバーで桃に始まり桃で終わるのは昔からなのですか?」
「少なくとも俺が4年のときはそうだったよね」
「つまり1年生の頃から変わりない光景ということですか」
「そうなるよね」

 学年が上がって表情が硬くなっても、こういう根っこの部分がところが変わっていなければ安心するモンだよとダイさんは笑う。
 圭斗先輩にしても、1年生当時から大人びた風貌でいらしたそうだけど、今はそれが年齢相応に大人び方も進化しているとダイさんは評価するのだ。
 すると、村井サンがダイさんの変わらなさにも安心しますけどねと言いながら焼きそばを口に運ぶ。俺はそれにきょとんとしていたけど、圭斗先輩は確かにと頷いている。
 学生ならともかく、ダイさんは社会人になっているのだからある程度は変わるに決まってる。だけど、再会したときに戻る地点というのがあるのかもしれない。

「だから、どんなに普通じゃなかろうと菜月がサラダバーで器2杯の桃からスタートしてると、菜月だなあって思うモンなんだよねえ」
「確かに、菜月先輩と言えば桃缶ですからね」
「お前に言われる覚えはさほどないぞ、ノサカ」
「風邪をひかれた際、三井先輩からお見舞いとしていただいていたではありませんか」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ