エコメモSS

□NO.2201〜3100
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■迎えてゴロ寝で盆休み

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 人でごった返す星港駅。それもそのはず、今日は盆休みの帰省ラッシュ真っ只中。スーツケースを引いた奴や、それを出迎える家族らがたむろしている。俺も、銀時計の前でそろそろかと新幹線乗り場の方に目をやれば。

「おー、高崎ー!」
「よう万里」
「本当に来てくれるとか」
「お前が時間ねえとか言うから来てやったんだろうが。感謝しろ」

 大きなドラムバッグを担いで出てきたのは、越野万里。高校の同級生だ。同じクラスだったのは文理選択の関係で1年の時だけだったが、高校で出会った奴の中では一番仲がいい。今は紅社の大学に進学していて、向こうで一人暮らしをしている。
 盆に帰ってくると言うから会おうかという話になったが、盆は俺も稼ぎ時。万里の方もキツキツのスケジュールでなかなか予定が合わなかった。後日拳悟を含めた3人で飲むのとは別に会うとすればこのタイミングしかなかったのだ。

「で、どうする。まずは飯か」
「どっか入れそうなトコあるかな」

 とりあえず、人のごった返す駅構内から出ようぜという結論にたどり着く。とは言えこんな時期の昼飯時だ、駅周辺の飲食店なんかどこも入れないだろう。回転率に賭けることも出来なくはないが、それも面倒だと判断。
 飯も食いたいが、ゆっくり話すこともしたい。人が多いのも嫌だ。そんなワガママを通すのであれば、答えはひとつ。向かうのは近くの駐輪場。当然、俺は星港駅まで電車ではなく愛車のビッグスクーターで来ている。

「万里、後ろ乗れよ」
「カバンは?」
「なるべく動かないようにしといてくれ。紐短くするとか」
「どこに行くとか決めてんのか」
「いや、決めてないけど部屋に帰るつもりで走らせていく。途中でどっかいいトコあったら止めてくれ」
「止めなかったらお前の部屋に行くの?」
「あー……まあ、そうなる」
「じゃあ止める理由ねーじゃん」

 俺の部屋に行くことになったところで、それじゃあそれからどうするということになる。飯を買うなり作るなりしてそれを食いながら積もる話をするのだと。じゃあ、スーパーかどっかに寄る必要が出てくる。
 後ろに万里を乗せ、車の連なる星港の道をするすると抜けていく。二輪の優位性を利用して。中心さえ抜ければ向島エリアは大いなる田舎だ。好きに走れるようになってからは早かった。
 万里の家も通過して、地下鉄の範囲も抜けた。そうなれば、あとは緑ヶ丘大学方面に向かって走っていく。いつも行っているスーパーも盆ということで売り出し中。ここも人が多い。とは言えここでするのは特別な買い物ではなく、日常のそれだ。

「はー、帰ってきたー」
「お前の部屋ではないけどな」
「んー、美味そー! 食おうぜ高崎!」
「だな。じゃ、いただきます」

 机の上には焼きそばと麦茶。それを食いながら、互いの近況について話す。万里は物流とか輸送システムについて勉強しているが、その中でサークルでバスケにも精を出しているとかそんなようなことを。
 俺は現代コミュニケーション論という万里ほど具体性のないそれを学びながらバイトやサークルに忙しくしていて、怠惰な生活を送る日もありつつ、それなりにやっていることを。万里と親交のあった高校の同級生らの動向も伝える。
 飯を食い終われば土産を受け取り、机を起こして壁に寄せる。万里の希望で床にごろごろしながらひたすら話をし、麦茶を飲む。万里を家まで送らなくていいならビールを飲んでいるところだ。

「高崎、アイスある?」
「バニラかチョコミント」
「バニラ」
「冷凍庫にあるから俺のも持ってきてくれ」
「お前チョコミント?」
「ああ。スプーンは引き出しにある」

 人混みを避けたいと部屋に入ろうと決めたのが失敗の始まりだったのだろうか。


end.


++++

星ヶ丘のおかげで特に空気だったのが緑ヶ丘勢だったのですが、何気に盆時に強いのがこの高崎悠哉とかいう男であった。
何だかんだ高崎はフットワークが軽いのですが、今回は動くだけの理由がちゃんとあったため。
って言うか高崎はチョコミントとか食べるのか……イメージとしてはスーパーカップとかのつもりでした。

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