エコメモSS

□NO.2201〜3100
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■数十分の暗闇の世界で

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 向舞祭も終わって、夏合宿があるけど俺の中では折り返し地点を過ぎたところだ。同じように、慧梨夏も同人イベントの方が少し落ち着いて、今はまた秋のイベントに向けて(俺のパソコンで)原稿と向き合っているようだった。
 秋の足音が近付いているとは言え、まだまだ暑い。今は夜だから昼に比べれば全然いいけど、それでもじわっと汗ばむ陽気であることには違いない。部屋にはクーラーがかかっている。

「慧梨夏、アイスでも食うか」
「あっいいね! Ctrl+Sからのドロップにインで、休憩ー」

 ――と、慧梨夏が伸びをした瞬間のことだった。突如、外からガシャーンという大きな音。辺りを見渡していると、部屋の電気がフッと消える。室内灯も、エアコンも。テレビも扇風機も炊飯器も冷蔵庫もWi-Fiも全部! テレビの録画予約もおじゃんだ。

「カズ、なに? 何で電気?」
「いや、わかんないけど今のデカい音が原因だろうな。つか原稿は」
「大丈夫、クラウドに放り込んだ」
「落ち着いてるワケだ。ちょっと外見て来る」

 外に出てみると、辺りが真っ暗になっていた。うちだけの現象でないとわかったのは、玄関先に出るだけでもこのマンションの住人がちらほら見られたからだ。さすがに駅の方とか街の方角の明かりはあるけど、この辺りの外灯や、家の電気は消えていた。
 こんばんは、どうしたんですかね。そんな風に挨拶をしながら情報収集をしていくと、どうやらちょっといったトコの電柱にトラックがぶち当たって大変なことになっている、と。こんなことでもないと近所の人に挨拶する機会ってないよなあ。

「慧梨夏、事故だ」
「あー、すごい音だったもんね。って言うか真っ暗だし暑くなってきたし」
「多分今なら窓開けた方が涼しいぞ。外は風吹いてる。あとアイスは延期な。冷凍庫の密度は下げない方がいい」
「はーい。あっ、トイレは出来る?」
「出来るだろ。水道は……生きてるな」
「ねえカズ、懐中電灯とかラジオとかなかったっけ。音がないと落ち着かない」

 スマホのライトで辺りを照らしながら、不安げな表情で慧梨夏が言う。しまった、懐中電灯の用意はないし非常時にさっと出せるラジオなんかも持ち合わせていない。ステレオはあるけどコンセントにつながないと。
 何だかんだうちの家電事情って学生としてはグレードが高めだと思ってたけど、いざこうなってみると生き延びれないことがわかる。明日、さっそく懐中電灯とラジオ買って来よう。電池は玩具用に買い置きしてあんだけど基本単3だし。

「慧梨夏、ベランダ出るか」
「そうだね。部屋は暑いし埒が明かないし」

 冷蔵庫にあった缶チューハイを取り出し、ベランダへ。暗い中、特にすることもなくただただ町の音に耳を傾ける。スズムシの声も増えてきたなとか、窓を閉め切っていては気付かない秋に気付く。

「ねえカズ」
「ん?」
「星がきれい」
「あー、ホントだ」
「星座の見方わかる?」
「いや、わかんない」
「ネットかアプリ落とすかして調べるかなあ」
「いや、いいだろ。今はある物で楽しもう。とりあえず、うちのベランダは南向き」

 星座の読み方は全くわからないし今後も興味が出るとは思わないけど、慧梨夏と一緒にベランダに出て空を見上げるという、ありそうでない状況の贅沢を噛みしめる。ありがとう停電。
 それから、いろいろなことを話した。それぞれがこれまで過ごした夏のレポートに、残る夏休みの予定とか。それで、俺の夏合宿が終わったら2人でどこか行くかとか、そんなような約束を。

「あっ」
「電気ついた。冷凍食品が無事でありますように! 慧梨夏、俺ちょっと炊飯器の時間合わせしてくるわ」
「カズって電気がないとダメだねホント」
「お前もだろ。原稿の続きやるんだとすればお前も電気がなきゃダメじゃねーか」
「うちはその気になれば手書きも出来るから! カズは火起こすところから始めなきゃでしょ?」
「火起こして飯作るとなったらそのときはお前も手伝ってくれな、燃えそうなモン集めて来るとか」

 冷蔵庫はもうしばらく冷えるのを待つとして、炊飯器やその他時間合わせの必要な家電たちをピックアップ。停電の時間で外の気温に慣れたし、網戸のまま扇風機で。寝るときはクーラーつけるけど。

「あ、さっそくだけど慧梨夏、明日懐中電灯とラジオ買いに行くか」
「そうだね」


end.


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先日エコ宅で停電になったときに、電気がないから星を見上げようとなるキャラクターは誰だ選手権を開催したときに、本命対抗を抑えていちえりちゃんです
いち氏が台所の心配をしてるあたりが仕事場って感じ。炊飯器の時間合わせは大事。お米はもうといであったのかな
電気のない暮らしになっても原稿を書こうとする慧梨夏である。その気になれば手書きも出来るからとはなかなかの強者である

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