エコメモSS

□NO.2201〜3100
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■What is Real?

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 今日は向島大学のオープンキャンパス。学内には高校生がわらわらと歩いていて、夢と希望に溢れた彼らもそのうち現実と絶望に染められるのかと思うと……げふんげふん。律じゃあるまいし、俺がそんなラブ&ピースなことを思うはずないじゃないか。
 さて、放送サークルMMPでは食堂の一角を借りて公開生放送を行うことになっている。人でごった返すところの一角を借りて席をいくらか潰すのははっきり言えば営業妨害――おーっとぉ! ナンデモアリマセンヨー。
 11時から13時までの2時間で、各ペア30分の番組をやるのだ。もちろん、人が最も多い12時からのパートは満場一致で菜月先輩と律のペアの番組に決まりましたよね! アナウンサーの実力問題というヤツで。

「ノサカ、ヒマやわ」
「他の人の番組を聞くとかだなあ、耳を養え」

 トップバッターで早々に番組を終えてしまった俺とヒロは、暇を拗らせていた。正直に言えば俺は腹が減っている。今は三井先輩とこーたの番組をやっていて、テレビでCMをやってる間のトイレ休憩じゃないけど、それをやるなら今が好機……っとっとぉー、オモッテマセンヨー!

「まーた三井先輩がホラ吹いとるわ」
「言ってやるな、サークルを通して出会いがあるというのは本当だ。ただ、絶対恋愛に繋がるかのような言い方をするのはNGっちゃNGだよな」

 三井先輩のトークテーマは「部活・サークル」についてだ。各人、大学生活に繋がりそうなトークテーマを掲げていて、ヒロはアルバイトだったし菜月先輩は一人暮らしについて、圭斗先輩は学業のお話をされることになっている。
 トークの内容がどこかで聞いたような内容のコピペばかりでライブ感のないことに定評のある三井先輩が、例によってウェーイと嘲笑したくなるような……げふん、サークルと出会いについてのお話をつらつらと。
 内容を掻い摘むと「サークルを通じて出会いがあるし、そこから恋愛に発展する。趣味が高じてそうなってるし長続きするだろう。ハッピーな大学生活に間違いなし」というようなことだ。えーと、どちらサマの発言で?

「圭斗先輩が言えば説得力もあるんに、三井先輩が恋愛の話しても説得力の欠片もないわ」
「言うなヒロ、今ここで聞いている一般の高校生には三井先輩でも女性をとっかえひっかえしてる風に見えるんだ。見た目だけはいいし」
「とっかえひっかえて。それはあんま良くないやろ。チャラいわ、愛がないわ」
「うん、知ってる。でも、三井先輩の“春”の頻度を考えるとさ」
「あ、うん。せやった。ゴメンノサカ、今のはノサカが正しかったわ」
「お前からまともな謝罪をもらえて俺は今猛烈に感動してる」
「今のはホンマにボクが悪かったし。わかっとらんかった」

 話の上辺だけを聞けばそういう恋愛も楽しいんだろうなあと思う人もいるんだろうと思う。だけど、三井先輩がどういう頻度でどういう一方的な“春”を迎えているかを知っているから俺たちはどこか冷めた目で見てしまうのだ。今も何か春が来てるらしいですよ?

「大体、サークル=恋愛ってゆーんは違うと思うわ。確かにボクはノサカにMMPに連れてきてもらって出会いもあったし楽しいけどさ、それと恋愛とはちゃうわ、ちゃう」
「まあ、それはアナウンサーごとの考え方だし今回は、な」

 ヒロは青女の啓子さんのことが好きなんだろうし、俺は同じMMPの菜月先輩を慕っている。言ってしまえば「サークル=恋愛」だろと言われてしまえば強く否定は出来ない2人だ。だけど何かこう、大っぴらに言われると違うんだよな感が拭えない。
 確かに恋愛というのはトークとしては人の関心を引きやすい。だけど、高校生が聞きたいサークル事情か、という疑問は残る。それに、恋愛だなんてテーマは下手に触ると自爆しかねないからよほど圭斗先輩のような方でなければ劇物危険だ。

「ノサカ、サークルのテーマ、ボクがもらうべきやったかな。友達いっぱい出来るよーとか、活動外にも趣味広がるよーとか、ネタはあるよ。ハマちゃんといろいろ遊びに行ったりしとるとか、フットサル始めたとかさ。ボクなりの実例もある」
「意欲があるのはいいことだけど、三井先輩だからテーマがアルバイトだったとしても恋愛に繋がってたと思う」
「あー、せやわ」
「でも、そのテーマを考えとくのはいいことだと思う。来年の新歓のときに唯一のアナウンサーとしてぜひ生かしてくれ――はっ、ヒロが唯一のアナウンサー…!?」
「何やのノサカ」
「いや、菜月先輩と圭斗先輩がもうすぐいなくなられるのだと思ったら悪寒が…!」
「菜月先輩おらんくなったら誰がアナウンサー教えるん!」
「お前だ!」
「そもそも次の子来るん!?」
「呼ぶんだ!」

 ――などとわあわあ言っていたら、圭斗先輩から叱られましたよね。退屈なトークなのはわかるけど一応静かに聞いてろって。うわーい、ラブ&ピース!


end.


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しょーもないことだけど、ヒロがノサカに真っ当な謝罪をしたことがかつてあっただろうか、いや、ない。
今日のノサヒロはめっちゃ仲良しですね。多分テストとかが絡んでないし、2人とも冷めてたからだろうなあ。
そしてノサカが現実に気付きましたね……菜月さんと圭斗さん(と三井サン)がもうすぐいなくなってしまうという恐ろしい現実だぞ!

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