エコメモSS

□NO.2201〜3100
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■勉強と情と穿った視線と

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 さとちゃんが、最近やけにうきうきしているような気がする。表情が明るいと言うか、ああでもないこうでもないと言いながら楽しそうにレシピを考えている様子が。好きなことをしてると楽しいのはわかるけど、それだけじゃないような雰囲気。
 生活科学部、平たく言えば家政科のさとちゃんは、衣食住について専門的に勉強している。ただ、衣食住と言っても範囲は広い。同じ生活科学部のユキちゃんは住についてがメインだし、さとちゃんもそれまでは衣の分野がメインだった。
 秋学期を迎えるに当たって、さとちゃんは方向転換をした。それまでのメインだった衣の要素を少し残しつつも、より比重を置いたのは食の分野。ここまで大胆な変更をするからには、きっと心に思うところがあったのかなって。

「さとちゃん」
「あ、紗希先輩。おはようございます」
「楽しそうだね。何やってるの?」
「レシピを考えてるんです。体に優しくて栄養もあって、料理が苦手な人でも簡単に作れて、費用もあまりかからなくてっていうメニューなんですけど」
「授業の課題?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「趣味?」
「趣味、になるんでしょうか……」

 すると、さとちゃんは夏の間にあったという不思議な出会いについて話してくれた。近所の公園で具合が悪そうにしていた人を助けたのをきっかけに、体と食事について考えることが増えたんだそう。
 入院を経て食事により一層気をつけなければならなくなったその人の話を聞いているうちに、簡単で安くて美味しい食事をもっと手軽に食べられるにはどういったレシピならいいのかと考え始めた。

「その人は消化器系の病気なんですけど、退院してしばらくした今でも食べられる物や可能な調理法が限られてるんです」
「制限があるんだ」
「揚げ物がダメとか辛い物はよくないとか、いろいろあります」
「覚えるのも辛そう」
「そういう人たちって、自分で料理してると知らず知らずのうちにメニューが偏ってくると思うんです。あれもダメ、これもダメって考えてると食事が負担になりますし、気が滅入りますから。少しでもそういう人たちの力になれればなって思って」

 さとちゃんの力強い目に、将来の目標みたいな物が見えてきたのかなって思った。衣食住の衣の分野も好きだから履修表には残すけど、今から本格的に進みたいのはそういった人たちのための食の道。そんな風に。

「その人、料理があまり得意ではないみたくて。あまり手の込んだことが出来ないんですね。一度彼の部屋で料理をしたんですけど、あたしのやってることがわからないって言われて。もっと簡単じゃなきゃダメなのかーって」
「えっ、ちょっと待ってさとちゃん。男の人の部屋に上がってるの? え、何歳の人?」
「歳はひとつ上なので紗希先輩と同い年ですね。大学3年生だって言ってました」
「危ないよ、男の人の部屋に無防備で上がり込んだら」
「あっ、危ないとかあと何かえっと、お料理以外のことはしてませんし。あっ、でも洋服のボタン付けもしましたね」
「そういうことじゃないよ。相手が病み上がりだろうと気をつけなきゃ」
「はい。今後は気をつけます」

 さとちゃんは優しいから、きっと具合が悪かったその人をほっとけなかったんだろうし、その後も入院とか食事の話を聞いてどんどん力になりたいって思うようになっていったんだろうけど、危ない物は危ない。何かあってからじゃ遅いし。
 話をもっと聞いていくと、最近では彼の車で一緒にスーパーに買い物に行ったり、一人でもさとちゃんのレシピに沿った料理が出来るように一緒に台所に立って練習もしているとか。えっ、ちょっと待って、新婚さんかな?
 彼が夏休みを終えて実家から戻ってきたときにはお土産ももらっちゃって、野沢菜が美味しくておやきの中に入れてみたんですよーなんて。何だろう、惚気にも聞こえてくるからABCの環境って荒んでる。直クンは緑ヶ丘のあの子とどうなったのかな。

「さとちゃん、何か怖いことがあったら言ってね。アタシがその人を捻るからね」
「紗希先輩が捻ったら折れちゃいそうで怖いです…!」
「折りに行くからねって意味だよ」
「あ、あの、紗希先輩……目が怖いです」
「うふふ」


end.


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今年は長さとの件に全く触れてなかったので、ここらでひとつ。紗希ちゃんが長野っち(とは伝わってないけど)を捻るとかシャレにならん
確かにさとちゃんのやってることが単なる人助けにしては深入りし過ぎっていうのは紗希ちゃんじゃなくても思いそうやなあ。
しかしABCの環境www 特に3年生は荒波にもまれて来てるから余計荒んでるんやろうなあ……紗希先輩怖いっす

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