エコメモSS

□NO.2201〜3100
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■Awakening HIRO

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 向島大学でも秋学期が始まり、放送サークルMMPも活動を再開して1週間。そして始まるのが昼放送。昼放送は履修の都合などでペアが毎期変わる。ただ、MMPでは人数の多い緑ヶ丘のように人が余るということはなく、日々の枠を埋めるのに必死だ。
 というワケで、履修の都合やその他諸々の条件を見た結果、俺は春学期と同じく菜月先輩とペアを組ませていただけることになった。去年の秋学期から数えて3期連続になる。そこまではいい。むしろ大歓迎だし小躍りしたい。何が問題って。

「しかしまあ、野坂もよくやるね」
「気付けば巻き込まれていました」

 奈々と組むことになったはずのヒロがやる初回放送のミキサーを、何故か俺が担当するというイレギュラー。ヒロの野郎、その辺を歩いていた暇なミキサーだからと俺に白羽の矢を立てやがったのだ。
 やはり1年だからか奈々の履修コマはキツキツで、バイトもしていてなかなかに忙しい。そこで、隔週で奈々とこーたがヒロの番組を持てばいいんじゃないかという結論に達した。ところが蓋を開けてみればどっちも忙しかったというオチ。

「そーゆーワケなんで、ちょっとボクの番組聞いてみてくださいよ」
「ん、モニターだね」
「そーゆーコトです」

 ヒロが、俺と収録した初回放送をサークルの場で流して評価を聞きたいと言い出したのだ。いや、やる気が続いているようで結構だけど、ちょっと前のぐだぐだな奴とは別人すぎて逆に引くぞ。
 モニターをお願いしたのは3年生の先輩方だ。俺たち2年もヒロの練習には付き合ったけど、2年以下はヒロ以外全員ミキサーだからどうしても視点が偏りがちになる。やはり、アナウンサーの意見も聞いてみてということなのだろう。

「ん、始まったね」
「お願いします」

 番組が始まると、先輩方は茶々を入れながらポイントを拾い上げる。菜月先輩はペンとストップウォッチを手に、気になったところをメモされている。ヒロはボク頑張ったんですよなどと言いながら自信に満ち溢れた様相。俺は怖くてしょうがないというのにお気楽な奴だ。

「さて。菜月さん、何かあるかい?」
「そうだな。ミキサーがノサカだからか各パートの時間配分がきっちりしてる印象はある。ヒロは、そうだな……発声は要改善だけど、番組の内容で言えばここっていうポイントが前より言葉が具体的でイメージしやすくなってた。前は肝心な所が指示語ばっかりで何が言いたいのか伝わってなかったから」
「ノサカ、指示語ってナニ」
「菜月先輩が仰ってるのは“アレ”の話だ」
「“アレ”って指示語ってゆーんや」
「こそあど言葉って言うだろ」
「タラレバなら知っとるよ」
「タラレバとは違う」

 高崎先輩からも指摘されていた、何でもかんでも“アレ”で済ますヒロの癖。菜月先輩の耳で聞いてもその点はやや改善されていたようだ。練習の効果が少し現れていたということだろう。

「ノサカ、お前の課題は曲の引き出しだな」
「はい」
「番組中にかけるMにしても、BGMにしても。汎用性が高い1枚を使い回すのを悪いとは言わないが、もう少し人や状況を見ながら選べるようになればもっと良くなる。例えば、今のお前の手持ちでガチな圭斗に対応出来るか、ということだ。BGMでアナが生きるなら、殺すこともある。選択肢を増やすことだな」
「なるほど…! ありがとうございます」

 菜月先輩からのありがたい講評をいただいたところで、俺とヒロはまた各々のペアでそれを生かしていくことになる。多分ヒロのやる気が続く限り練習には巻き込まれると思うけど、それに限っては巻き込まれるのも悪くない。

「あの、僕からもいい?」
「三井先輩はええですわ」
「ちょっと! 何で!?」
「三井先輩のモニターてボロクソ言って結局自分はこんなことが出来るーゆー自慢しかせんやないですか」
「そんなことないよー」
「語彙力と発想の貧困さを感じますよ」

 う、うわー! 言いやがった! さすが悪口をひとつ挟まないと死ぬ病を煩っているヒロだ! 出来れば初心者講習会か夏合宿の時に言ってほしかった! だけどこれに菜月先輩と圭斗先輩が大笑いしていらっしゃって…! さ、さすが菜月先輩と圭斗先輩だぜ!

「菜月〜、ヒロが酷いんだけど! 菜月が甘やかすからじゃない!?」
「諦めろ、三井。今のヒロは覚醒状態だ。誰の手にも負えないぞ」
「ん、悔しかったらぐうの音も出ない番組を作って聞かせればいいんじゃないかい?」


end.


++++

何と、ヒロが3年生をも……と言うかサークル全体を巻き込みはじめました。マジで覚醒してやがるぜ!
そしてここぞというところでのモニターはやっぱり菜月さんですね。しかしヒロは語彙力という単語は覚えたけど、指示語という言葉はまだ覚えてなかった様子。
ノサカもちょっと本音がポロリ。まあ、初心者講習会とか夏合宿のときは悪い意味で三井サンが手に負えなかったからなあ……ノサカ、お疲れ

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