エコメモSS

□NO.2201〜3100
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■試験範囲と対象の解釈

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「ったく、何でお前と」
「それはこっちのセリフだ」
「はい、いいから早く席について」

 アナウンサー席には高崎先輩、そしてミキサー席にはMBCCの会計で幽霊部員の武藤先輩が座っている。そしてこの現場を仕切るのは岡崎先輩。何が怖いって、高崎先輩と武藤先輩の間に流れる険悪な空気と、険しい表情。
 MBCCでは大学祭に向けて日々準備が進んでいる。DJブースでは個人の企画番組と学年ごとの企画番組、それからリクエスト番組の打ち合わせなどなど。他には食品ブースの焼きそばの研究開発など。
 今日これから行われるのはDJブースに関わる試験だそうだ。その監督を務めるのが、DJブースの責任者である岡崎先輩。その場にいたメンバーは観衆として試験を見ていてほしいと頼まれている。

「イク、いい? イクの実力は知ってるけど、ブランクがあまりに大きすぎるから学祭のブースでやれるかどうかを見させてもらうよ」
「だからって何で相手がコレかね」
「あ? てめェ、人をコレ呼ばわりしやがって。どのツラ提げてのこのこ来やがった」
「はーやだやだ相変わらず王様の独裁かー」
「やだやだはこっちのセリフだ」
「これで、どうして高崎相手かわかったね」
「わかるワケないじゃん! ユノ、もっとわかりやすく説明してよ」
「それに関しては同意だ。わざわざ俺がやらなくたって、お前がやりゃいいだけの話じゃねえか」

 伊東先輩からチラリと聞いたことがあったんだけど、高崎先輩と武藤先輩は1年生の頃からの犬猿の仲なんだそうだ。昼放送でペアを組んだこともあったそうだけど、それも喧嘩別れしてるしとにかく合わないとか。
 ただ、俺みたいな先入観のない1年生からすれば、ミキサーの腕だけなら伊東先輩よりも上だという武藤先輩がどういうミキシングをするのかはすごく気になるし、それならやっぱりアナウンサーは上手い人の方が、とは思う。
 岡崎先輩によれば「たまにふらりと来て学祭のリク番はやりたいって言うならこれまで避けてきた道を来るべきである」とのこと。避けてきた道、すなわち犬猿の相手である高崎先輩と組んでのテスト。高崎先輩は巻き込まれたのか。

「カズ、リクエスト用紙は?」
「あるよ。ここにいる人に書いてもらえばいいみたいなことね」
「お願い」
「じゃ、配るよー。ストックリストの中から好きなの選んでね、なるべく難しめでー」
「カズ、なに余計な注文つけてんの!」
「えっ、だってテストなんだから難しくないと」
「アナは普通レベルでいいけど、とにかくミキサーを殺しにかかれ」

 この高崎先輩からの指令には武藤先輩が反発しつつ、2人の口喧嘩をBGMに俺たち観衆はリクエストを用意した。このリクエストを元に15分の番組を今この場でぶっつけ本番でどう組み立てるかというのがテストの内容。
 伊東先輩からは、1年生は自分ならどうするか考えながら見といてねーと声が飛ぶ。実際、ディスクや用紙と向き合いながら打ち合わせを始める先輩たちを見ていると、参考になる面がいくつもある。
 武藤先輩の手は息つく間もなく動いているのだ。ヘッドホンは左耳だけ掛けて、右耳はスピーカーの音と現場の音、それから高崎先輩の声に向いている。左耳で聞いているのは多分他の音源で、PFL用みたいなことなのだろう。
 曲によってどこでコメントを入れるかなどを指示しつつ、長期戦にありがちな単調さではなく音の切り方やフェードの仕方で作られるメリハリのある音の流れ。何より曲と曲の混ざり方がカッコいい。
 俺はただただ圧倒されていた。ついさっきもらったリクエストをほぼ即興で組み立ててここまでカッコいい構成になるのかと。ミキサーの先輩たちが武藤先輩を天才だって言う意味が少しわかった気がした。
 それと同時に、高崎先輩とは折り合わない理由も何となく。武藤先輩の音の流れには、難しい理屈のような物はない。どうしてそうなったかを説明しろと言われても出来ないと思う。高崎先輩は日頃から物事に根拠を求める。感覚型の人とは理解し合えないだろう。

「タカシ、育ちゃんの音、どう?」
「すごいです、ただただすごいです」
「でしょ、もっと早く育ちゃんのミキサーを見せたかった」
「タイプ的に、イクに一番近いのは今いるミキサーだとタカティだから、何か思うところはあるんじゃないかなとは思ったけど」
「ヨシ、何かいろいろ言ってたけどこのテストって単なる職権濫用でしょ?」
「あ、バレた?」
「そりゃ、夢見るでしょ。高ピーと育ちゃんの番組なんて今後絶対ないと思ってたし」
「それもあるけど、これは俺からタカティへのヒント」
「ヒント、ですか?」
「そう。高崎は別に感覚型主動の流動的な番組が出来ないワケじゃない」

 ヒントというからには昼放送で活かせということなのだろう。今後、俺がどんな番組にしていくのかということが問われている。もしかすると、今後年末までの時間をかけてテストされるのは俺なのかもしれない。


end.


++++

突然育ちゃんが帰ってきました。そう言えば学祭のDJブースはやりたいってことになってましたね。ユノ先輩が責任者でよかった
そして行われるテストに巻き込まれる高崎、安定のいち氏は性格の悪いリクエスト用紙を仕込ませたら容赦ないぞ!
昼放送で高崎と組んでいるタカちゃんに、ユノ先輩からのヒントはどう生きるか。

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