エコメモSS

□NO.3101-
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■10月の祭に丸ひとつ

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「よーし、今日はたくさん食べますよー!」

 とうとうこの日を迎えた。今日は果林先輩の誕生日の前夜祭として行われる無制限飲み、MBCC流オクトーバーフェストだ。このお祭りの企画立案は主賓のはずの果林先輩。運営は伊東先輩が主体になっている。運営と言うか、会場提供と料理の準備か。でも、かなりの重労働だなと思う。
 伊東先輩が少し心配していたのは高崎先輩の了承が得られるかという部分だった。MBCCでの大きなイベントは、高崎先輩に対してどのように企画運営をするか具体的にプレゼンする必要がある。流しそうめん大会をやりたいとか、バーベキューをやりたいとか。だけど今回に関して言えばその心配は無用だったらしい。
 プレゼンに付き合った果林先輩によれば、伊東先輩が「ジャガイモ料理に腕を振るうMBCC流オクトーバーフェストをやります」と宣言した瞬間「それは楽しみだ」と参加を表明したらしい。それどころか美味しいウインナーを調達してきてくれるとか。オクトーバーフェストのコラムに丸の打たれた辞書にウソはなかった。

「いっちー先輩、すでに戦争中ですよねー」
「何日も前から準備してましたからね。相当気合い入ってますよ」

 台所では伊東先輩が慌ただしく調理をしている真っ最中。部屋にも電気鍋と真空保温調理器という鍋が置いてあって、そっちでも同時調理中なんだとか。俺と果林先輩は会場設営を頼まれていたけど、台所の様子が気になって会場設営どころではなくなってますよね。

「って言うか、今回のジャガイモってタカちゃんが調達してくれたって聞いたよ」
「あっはい、星大のミドリが譲ってくれるっていうんでもらってきました」
「えっ、すごいいっぱいって聞いたよ。本当に譲ってくれたの?」
「そうですね、譲ってもらいました。Lサイズのジャガイモが25個くらい入ったケースを、5ケースですね」
「たくさんある分にはアタシも遠慮が要らなくてありがたいけど、ミドリはそのジャガイモをどこから出してきたんだろう」
「何か、バイト先の先輩が親戚から送りつけられた物らしくて、引き取ることが人助けだと言われたのでもらってきました」

 ミドリについて星大のPC自習室に行ったんだけど、大学のPC自習室なのにその事務所に「北辰のじゃがいも」って書かれたケースがたくさん積まれてたんだよね。市場か何かかなって思っちゃった。本当は3ケースの予定だったけど、ミドリの先輩がもう2ケース持って行けって言うからもらっちゃったよね。
 伊東先輩にジャガイモを届けると、本当に助かると言ってもらえた。練習用の芋をどう用意しようかと思ってたからって。これで心置きなく練習が出来るよと作ってもらった料理をミドリと食べたけど、本当に美味しかったなあ。ご飯の後、ミドリと一緒に冷凍コロッケの下拵えを手伝ったり。

「えっ、試作品食べたとか羨ましすぎるんですけど」
「本当に美味しかったので、今日も楽しみです」
「今日はタカちゃんがお手伝いしたコロッケも食べられるんだよね」
「そうですね。まあでも、ほとんど伊東先輩が作ったものなので。俺は蒸かした芋の皮を剥いて潰しただけですし」

 ――などとやっていると、インターホンが鳴った。伊東先輩が出迎えていたのは高崎先輩だ。ウインナーを持ってきてくれたようで、それを伊東先輩に預けて俺たちのいる部屋へと向かってくる。

「うーす。お前らもういたのか」
「高ピー先輩お疲れさまでーす。アタシとタカちゃんは嗅覚から刺激される食欲と戦いながら会場設営をするという拷問を受けてるところです」
「拷問か。でも、確かにそうかもしれねえな」

 すると、またまたインターホン。どうやら続々と参加者が集っているみたいだ。はーいと伊東先輩が出迎え、その人たちは部屋へとやってくる。

「GutenAbend! Wiegeht's dir?(こんばんは! 元気?)」
「やあ」
「あっ、育ちゃん先輩にユノ先輩、お揃いで」
「武藤てめェ、何しに来やがった」
「果林の誕生会兼オクトーバーフェストやるって聞いたから来ただけですが何か」
「呼んでねえぞ」
「お生憎様。こちとらカズとユノから招待受けてんの。あっそう、せーっかくアンタならちょっとは味がわかるかなーと思って用意した本場のビールは要らないと」
「ちょっと待て、それは別件だろうがよ」
「生ハムとチーズも用意したんだけどなー」
「ぐっ」
「とりあえず、アンタのウインナーと交換でどう?」
「乗った。チッ、余計な事はすんなよ」
「イクの完全勝利だね、高崎」
「うるせえ岡崎」
「果林バースデーイブおめでとー、はいプレゼントのお菓子」
「わーい育ちゃん先輩ありがとうございまーす! すっご、さすが育ちゃん先輩、ちゃんとドイツのお菓子ですね!」

 猫目にミリタリーコートの先輩は、ご無沙汰の武藤先輩。2回ほど会ったことがあったはずだ。サークルで1回と、6月のミキサー飲みで1回と。高崎先輩と仲がすこぶる悪いとか、ミキサーとしての腕はすごくあるとか、隙さえあればどこかしらを旅しているという風に聞いたような。

「あっそうだ、下にLとゴティもいたよ。あと何か見たことないちっちゃい子たち」
「エージとおハナかな」
「ですかね」

 何か、サークルの時にも見ないような大集合。伊東先輩が事前にたくさんご飯を用意しておかないと、と意気込んでいたのは大正解。追いつかなくなっちゃうからという心配も当たりそうだ。だからと言って俺に料理の何が手伝えるワケじゃないけど、美味しくいただくことが出来る感謝を噛みしめるだけだ。

「イクちゃん先輩とユノ先輩って今日どうするんですか? 泊まりですか?」
「アタシはゴティ車で帰る可能性もあるね」
「カズの部屋からなら俺は徒歩で駅まで行けるから、終電で帰るよ。果林は?」
「アタシの会ですよ? 食べ尽くすまで宴は終わりませんよねー」
「ですよねー」


end.


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MBCCオクトーバーフェスト、開戦直前です。今年は育ちゃんとユノ先輩まで出てきていつもとはちょっと違いますね。
で、高崎と育ちゃんはいつもの。完全に弱みを握られている高崎であった。なんやかんや扱いやすいからなコイツ
ゴティ先輩は酒豪ゾーンMBCCでハンドルキーパーをやってくれる聖人なのです。本人もお酒は好きなんだけどね、飲まないことも多いわね

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