エコメモSS

□NO.3101-
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■心に嵐が吹き荒れる

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「すみません林原さん、変な時間に連絡したのに来てもらって」
「いや、何も予定はないから構わんが。しかし、どうした」
「台風が凄かったじゃないですか。ちょっと、1人じゃ不安だったと言うか」

 朝の4時頃だっただろうか、川北から連絡が入った。用件は自分の部屋に来てくれないかというもので、早速川北の住むアパートの一室に向かった。オレを出迎えた川北は顔面蒼白と言うのが適した様子で、これは尋常ではないなと察した。
 パソコンからはネット配信されている台風関連ニュースが延々と流されていた。暗い部屋でこれをずっと見ていたとするなら、精神にもろに直撃してもおかしくないなとは思う。とりあえずニュースを見ることをやめさせ、無理矢理寝かしつけた。今は辺りがすっかり明るくなった昼前になる。

「俺、長篠出身じゃないですか。だから地元のことが心配でずっとニュースを見ちゃってたんですよ」

 昨日は一日中巨大台風の話題で持ち切りだった。どこでどれだけ雨が降ったとか、どこの川が氾濫したとか。星港は雨が酷かったが、それほど大きな被害がなかったと言えよう。向島や長篠辺りは台風が過ぎ去り、被害を確認する段階にあるのだろう。しかし河川の氾濫などはこれからまだ発生する危険性があると、再び入れた台風関連ニュースは繰り返している。

「実家の家族とは連絡を取り合ったのか」
「はい。家も家族も無事だそうです」
「それならば、ひとまずは良かったのではないか」
「そうなんですけど、それだけじゃないんです」

 そう言って川北は、充電器に繋いであったスマートフォンの電源を入れた。その瞬間だった。ブー、ブーとスマホが振動し、着信が入ったと告げる。しかし川北がそれを取る気配がない。少しすると、その着信は切れてしまった。そしてまたブーブーと着信が入るのだ。

「出なくていいのか」
「いいんです。無言電話なので」
「無言電話?」
「はい。昨日からずっと、この調子で。ニュースと、この電話でちょっとまいっちゃったと言うか」
「嫌がらせか」
「そうかもしれません」
「相手に心当たりはあるのか」
「地元で5年付き合ってた人です」
「そう言えば、そんなような女がいたとは言っていたな」

 センターで春山さんのセクハラ行為対策云々の話になった時に、女性経験のことなどの話を少ししたことがある。一応は彼女がいたことがあるから一通りの経験はある、と。その女とは喧嘩別れをして現在に至っていることだとか、結果として自分が裏切った形だからというように聞いた覚えがある。
 その時は春山さん対策が主題だったからさほど気にも留めていなかった。しかし、今日はこの喧嘩別れだとか結果としての裏切りということが絶え間なく続く無言電話に繋がる点なのだなと薄々察する。それはそうと、川北は精神的に相当参っているようだった。

「建築で災害とかから人の命を守れるようになりたいって言ってこっちに出て来たんですけど、地震とか大雨とか、長篠に限らずどこかで何かある度にこうです。災害だぞ、どうした、お前は何やってんだって責められてる気がして」
「とりあえず、スマホの電源を切れ」
「でも、俺の電話に繋がらないと他の人に迷惑がかかっちゃいますし」
「お前に繋がる人間にも嫌がらせをするのか」
「そうですね、うちの家族とか地元の友達にもそういうことがあったって」
「家族や友人にはあまりエスカレートするようなら警察に任せろと言っておけ。台風のニュースも、無言電話も、スイッチひとつで一時的にとは言え目を背けられるだろう。まずはそういったものを遠ざけて、お前自身の心を整えることだな」
「うーん……」
「お前はまだ一介の学生だ。使命感の強さや目標が高いのは結構だが、お前が実際に何か出来るようになるのはまだ先だ。そんな妨害で折れるようならそれまでだということだ。この惨状を目に焼き付けろ。それで、これから何が必要かを考え、実装出来るようになれ」
「……わかりました。ありがとうございます、話を聞いてもらっちゃって」
「構わん」

 人が抱えた事情は見た目に寄らんし、災害に見舞われた地に想いを寄せることは確かに重要だ。しかしそれでいつもかもこちらが参ってしまっていては、いざというときに動き出すことが出来んのだ。平穏な日常を送ることを自重し過ぎても良くない。
 何かちょっと安心しちゃいました、と川北ははにかむ。安心して油断したのだろうか、その瞬間壮大に腹の虫が鳴いた音が響く。あわわ、とセンターでもよく見る慌てふためく様子に、少しは元に戻ったかとこちらも胸を撫で下ろす。

「しばらく何も食っとらんのか」
「そ、そうですねー。ずっとニュース見てたので」
「ここにもジャガイモがまだ腐るほどあるし、現実逃避も兼ねてカレーでも作るか」
「えっ、作るんですか!? ジャガイモ以外の材料あったかなあ」
「ジャガイモがあればよかろう。カレーのルーはコンビニに行けばある。遠出するのも面倒だ」
「ところで、俺はあんまり料理が得意じゃないんですけど、林原さんてー……」
「オレもさほど得意ではないが、カレーくらいなら作れる。ゼミで大学祭にブースを出すとか何とかというのに巻き込まれてしまってな、カレー作りの練習をしているところだ」
「へー、林原さんのゼミでカレーブースを出すんですねー」
「ちなみにこれは内密にしていてほしいのだが、オレが押し付けられたジャガイモをここで大量消費するという目的もある」
「そ、それが賢いと思いますよー……」
「「北辰のじゃがいも」を売りにしたカレーライスだ。1杯300円を予定している」
「でも学祭のお店でご飯ものってあんまりイメージにないので逆に良さそうですねー。無性にご飯が食べたくなることもありますし。あっ、カレー作るならご飯炊かないとですね」


end.


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唐突なリンミド。ミドリがちょっとまいっちゃってたようです。深夜に限界だーってなった時、頼れるのがリン様だったようです。
しかしリン様がしっかりと先輩してんなあと。自分は自分、お前はお前というスタンスではあるけれど、親身になってしっかりと助言できるリン様よ
で、カレーの話な! 胃薬カレーの練習か……そういやUHBCの都合でたこ焼き器買わされてたわねミドリ

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