エコメモSS

□NO.3101-
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■点で描く春模様

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「ちーちゃん誕生日おめでとー」
「おめでとう大石」
「わー、ありがとうございますー」

 今日は大石君の誕生日だということで、大石君ととても仲良くしている4年生のみちゃこさん主催で大石君の誕生会的イベントが催されることになった。誕生会と言っても特に何をするでもなくご飯を食べるだけ。みちゃこさんから声がかかった村井のおじちゃんから声がかかったのは僕と麻里さんだ。
 大石君とは定例会で一緒とは言え、そこまでガッツリと絡んでいるというわけではない。むしろ、大石君と言えば最近では菜月さんのイメージが少しある。仲の良さがどうこうと言うより、菜月さんの趣味的な関係で。というワケで僕から菜月さんに声をかけ、今日の会に来てもらった。

「うんうん、今日も安定のスウェットで」
「基本的な私服がスウェットだし、今日はバイト上がりだからね。そのまま来ちゃったけど汚れとか大丈夫かな」
「特に何か問題があるようには見えないけど、何を気にしたんだ?」
「ほら、俺のバイト先って倉庫だからさ、どうしても埃とかで体や服が汚れちゃうんだよ。テープの切れ端をくっつけたまま歩いてるとかもザラにあって」
「それは倉庫あるある的な話か、ごちそうさまです」

 これを遠い目をして見ているのが僕と村井おじちゃんだ。確かに趣味は人それぞれだけど、これは菜月さんの趣味がわからないという顔だね。菜月さんの男性の趣味と言えば、体格が良く程よい筋肉質で、それなりに量を食べること。そして肉体労働の現場や作業着にときめき、働く車も大好きだ。
 今でも趣味で水泳を続けているアスリート体形の大石君は、インターフェイスでも指折りの大食漢だ。そしてバイトは倉庫での肉体労働。現場でもスウェットだから作業着こそ着ていないものの、梱包用テープの扱いに慣れているという点が好印象らしい。野坂のヤツを借りると、意味がわからない。

「しかし、菜月の趣味は安定だねえ」
「先日、菜月さんと恋愛とは別のフェチに関する話をしていたんですが、彼女は何て言ったと思います?」
「そりゃあ、体格が良くて云々じゃねーの?」
「「フェチとかの観点で言えば、大石の何がいいかを延々と語る大会になるぞ」ですよ」
「いくら好みは人それぞれと言ってもなあ」
「わかりませんよね、村井おじちゃんも」
「でも、菜月に今日声を掛けたのは圭斗ナイスゥ」
「お褒め頂きありがとうございます」

 みちゃこさんに呼ばれたと言え、正直僕たち3人では特にそれらしい共通の話題がない。大石君本人ときちんと話すことの出来る菜月さんの存在はかなり助かっている。確か、1年の頃から少し関わりがあったんだったかな?

「ところで、ちーちゃんは彼女とかいないの?」
「今はいないですねー」
「今はってことは願望とかはあるような感じ?」
「彼女なら前にいたことはありますけど、今は特にそういう相手もいないですし、当分ないと思います」
「えっ、ちーちゃんの彼女とか凄い気になるんだけど。どんな子?」
「ちーの彼女なら大体年上の人だよ」
「へー、そーなんだー」
「ちょっとみちゃこさん!」
「でも結局幼馴染みの子に落ち着くんじゃないの?」
「だから違うっていつも言ってるじゃないですか」
「でもさ、ちーさ、いつもその子の心配ばっかりしてるような感じでしょ?」
「それは、あずさが素直過ぎて変な人に捕まらないかっていうのが心配なだけですよ。今も部活で何か変な人に付きまとわれてるみたいですし」

 大石君の恋愛事情に話が及ぶと、向島勢があからさまにアップを始めるのだからわかりやすいね。そして僕と先輩方ほどではないにしても菜月さんもそれなりに下衆いので(でも猥談耐性は無に等しいんだからね)、聞き耳をしっかり立ててますよね。

「ストーカーとか?」
「星ヶ丘の映研なんですけど、今、学祭に向けて短編映画の撮影をしてるみたいなんです。そこでエキストラを募集したそうなんですけど、そこに来た人があずさに付きまとってるみたくて」
「ん? 大石、星ヶ丘の映研って言ったか?」
「うん。なっち、何か知ってるの?」
「星ヶ丘の映研で、あずさちゃん? お前の幼馴染みってことは西海在住か」
「そうだね」
「西海在住、中肉中背、キレイめのパンツスタイルで茶髪のボブヘアー、赤いフレームのメガネをかけたあずさちゃん」
「そ、そうだけど…?」
「圭斗、サークルの時に三井が例によって春を振り翳してただろ」
「ああ、何か運命の出会いがどうとか、例によって言ってたね」
「うちはそれと別件で授業中に筆談で情報を引き出してたんだけど、三井の話と今聞いた大石からの話がピッタリ合わさった。大石、その幼馴染みのあずさちゃんに付きまとってるのは三井だ」
「ナ、ナンダッテー!?」

 ――と僕と先輩方の声が揃ったところで、次に合わさるのは大きな溜め息だ。アイツはどこにでも湧いて来やがるな、と。そして夏合宿後から行われていたMMPの特別活動への出席率が低かったのも、奴が運命を追いかけ映画撮影に参加していたからだと菜月さんから語られた。
 向島勢がげんなりしている中、わたわたしているのが大石君だ。そりゃあ、心配になるよね。星大さんはこれまでに何人もがアイツに告白されて、振ったら振ったで負け惜しみで言われもない罵言を吐かれてきたのだから。

「なっち、どうしよう」
「ほっとけば勝手に別の春に移るから放置で問題ない。アイツはスルーが一番だ」
「まあ、そうだよねえ。実はさ、俺と朝霞がさあ、あっ、朝霞とあずさは星ヶ丘で同じゼミの友達なんだけど、ミッツだって知らなくてその人についての相談を受けてたんだけど、無視したらいいよって意見で一致してて」
「ちーちゃん、それは無視でいい」
「だな。大石、三井には無視が一番効く。おじちゃんが保証します」
「ですよねえ。そもそもあずさには朝霞がいますし、元々眼中にはなかったんですけどやっぱりちょっと心配で」
「大石、今何か大事なことをサラッと言っちゃったんじゃないか?」
「……あー……えーと」
「へ〜、朝霞に恋愛フラグが立ってるような感じぃ?」
「お麻里様、顔が悪いです! ですが、言っても朝霞君ですしそれこそしばらくないんじゃないですか? 大学祭前ですし」
「そっか。なら学祭が終わったらこっしーと朝霞を招集して飲もうか、圭斗さん!」
「かしこまりました〜……」

 そうとなったら最新情報を奈々から聞かなくちゃ、とお麻里様がイキイキしている。越谷さん生きて。そして大石君の誕生会という目的はどこへ行ったのかな? 話題はすっかり三井の春の話に持って行かれてしまったけれど。だけど、そういうゴシップが面白いんだから仕方ないよね。


end.


++++

以前は菜月さんを除くメンバーで行っていたちーちゃんの誕生会ですが、今年は圭斗さんの機転で菜月さんも招集されました。
いろんな話題をぶち込み過ぎなのは今年のナノスパっぽいなあ。でも菜月さんがいるならフェチ話は外せない。
で、星ヶ丘のあれこれも入って来たけれどその辺りはどうなってるのかしら。最近星ヶ丘の話がご無沙汰だけれど…?

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