エコメモSS

□NO.3101-
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■ルールと心の守り方

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「はい、小さくなって! 直、ドア閉めて」
「閉めるよ」

 バタンと車のドアを閉めると、ボクは密輸か密航かの手助けをしているような感覚に陥る。今、身を潜めながら啓子の車に乗り込んだのは、向島のヒロとこーた。大学祭1週間前ということで、ABCでは準備が大詰めを迎えていた。そこで作業スピードを上げようと、啓子が援軍を招集していたようなんだ。
 だけど青葉女学園大学はれっきとした女子校で、男子禁制。去年までは申請をすれば男子も敷地内に入ることが出来たんだけど、今ではそれも出来なくなってしまった。啓子はその法を掻い潜るため、自分の車に2人を乗せ、とにかく人目を避けながらサークル室まで連れて来たんだ。
 人手があったことで準備はそれまでよりも進みが良くなったのは本当だ。男の子の力ってやっぱり凄いとも。だけど、素直にそれを喜んでばかりもいられなくて、何かもやもやすると言うか。啓子は良くも悪くもステージの進捗が一番だから、多少の脱法行為も厭わない。

「……はあ」
「直クン、大丈夫?」
「紗希先輩」
「いろいろ、心配してるんだよね」
「はい。確かに今日は2人に手伝ってもらって作業は進みましたけど……何か、ちょっと違うんじゃないかって」
「一応は男子禁制なワケだしね」
「そうなんですよ。それに、青女が真の意味で男子禁制になった理由が理由じゃないですか。啓子だってそれを分かってないはずがないのに、そのきっかけになったABCがまたこんなことをして、大学側に見つかった時のことを考えると怖いです。最悪廃部もあるんじゃないかって」

 去年はインターフェイスの初心者講習会だって青女で行われてたんだ。男子が何人来ますっていうのを申請して、バッヂを付けてもらってっていう手順を踏んで入ってもらってたんだ。だけど、それからとある事件がきっかけで青女の敷地内に男子は完全に入れなくなったんだ。
 その事件というのはABCの4年生、シーナさんという人が絡んでいる。シーナさんが何人かはわからないけど男の人をサークル室に連れ込み、ラブホテルのようにしていたんだ。ボクが第一発見者だったんだけど、酷い臭いの籠ったサークル室には、体液と血液塗れになったシーナさんが泡を吹きながら倒れていて。

「ちょっと、すみません。あの時のことを思い出しちゃいました」
「Kちゃんにはアタシから一言入れとくね」
「すみません」
「でも直クン、無理はしちゃダメだよ」
「無理はしてないですよ」
「直クン、いつもさとちゃんを一番に心配してるでしょ? だけど直クンだってあのことでショックを受けてるんだから。自分のことも思いやってあげないと」

 実は、例の現場を発見した時には沙都子も一緒にいたんだ。ボクよりも沙都子の受けたショックの方が大きくて、沙都子はあのことが完全にトラウマになってしまった。ああいうのを連想させるグロ系や、単純に怖いっていうホラーが完全にダメになって。
 それから、サークル室を開けたときに急に飛び込んで来た光景がああだったから、沙都子はサプライズも苦手になった。だから誕生会を開くにしても、他のみんなに対するパーティーはビックリする要素を入れたりするけど沙都子に対してはそれもなし。事前の告知通りに進む楽しいパーティーだ。

「……ボクは、大丈夫です」
「辛くなったらいつでも言ってね」
「はい。そのときはお願いします」
「もしまたああいうことが起これば、アタシがタダじゃおかないから」

 あの事件で変わってしまったのは、多分、紗希先輩もだ。それまでは本当に優しいだけだったのが、今では……何と言っていいんだろう、ABCのメンバーに害を為す存在はどんな手を使ってでも排除する、という方向性になったと言うのが正しいんだろうか。
 インターフェイス夏合宿の期間中、向島の三井先輩に1年生のミラが酷いことを言われたりされたりしてたんだけど、その話を聞いた時もとても怒っていた。表情ひとつ変えずに淡々と三井先輩に対する皮肉や侮辱を並べ立てる様は、周りにいたボクたちをも遠ざけるようだった。

「啓子は、当日も向島の子たちに手伝ってもらおうとしてるんです。それはルール的にどうなんだろうとも思って」
「当日は一応男の子も敷地内に入れるからギリギリセーフではあるのかな。でも部室棟への立ち入りは出来ないから、入れるギリギリのところからになるね」
「あっ、一応セーフなんですね」
「うん。申し訳ないけど、ステージの大道具の運搬は手伝ってもらっちゃおう。その分カフェの方とかでお礼をするようにしたらいいかもね」
「そうですね。えっと、1食分ごちそうする感じで大丈夫ですかね?」
「そうだね。さとちゃんに向島さん用のケーキもお願いしなきゃ」

 ちなみにボクたちは大学祭でステージイベントと、執事&メイド喫茶を出すことになってます。喫茶の目玉は沙都子の作る手作りケーキ。1日の限定数が無くなればそれで終わりで、沙都子はその後は延々とクッキーを焼くんだ。

「あと、マーシーがどうなんだろう、本当に大丈夫なのかなあ」
「野坂くん?」
「マーシー、土曜日は向島さんでやってる昼放送の収録をやってるんですって。来週も普通に収録があるってこーたが」
「あっ、そうだよね。向島さんは定期的にやってるもんね」
「だけどヒロが来週は絶対にマーシーも連れて来るって啓子に宣言してたじゃないですか……自分たちの活動があるならボクはそっちを優先してもらいたいですよ。本来向島さんも大学祭の準備とかがあると思うんですけど」
「……そう考えたら向島さん全体に対するフォローも必要になって来るかも。それは向島さんの大学祭に行くときに考えとくね」
「紗希先輩、向島さんの学祭に行くんですか?」
「せっかく青敬さん以外は1週ずれてるし、ヒビキと学祭巡りすることにしたんだよ」
「楽しそうですね! ボクも他の大学さんに行ってみたいなあ」

 だけど、その前にまずは自分たちのことをしっかりやらないと。作らなきゃいけない大道具はまだあるんだから。


end.


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青女の話題が昨日のお話でチラッと出たのでここいらで青女にも触れてみました。とってつけたようだ
いつもは大体さとちゃんに焦点が行きがちなシーナさん事件だけど、第一発見者は直クンもだったよなあと思い出したなど。
で、紗希ちゃん。優しい子ではあるんだけど、時々怖いこともあるみたいですね。みんなビビり散らかす様も見たいのだけど

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