エコメモSS

□NO.3101-
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■ミート・アンド・バランス

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「やはり肉が美味いな」
「間違いないな。肉こそ力だ。カレーばかりではさすがに飽きる」
「……久々に、牛肉が美味しい……」
「あーそーかよ! どーせ豚肉カレーだよ!」

 今日も今日とて高井が言い出した「カレーの試作」に付き合わされたオレたちは、試作の名のもとにカレーばかり食わされていては敵わんと焼肉を食いに来ていた。高井が大学祭にゼミでカレーのブースを出すのだと言いだしてからは、延々と上手いカレーの試作ばかりを繰り返していた。
 如何せん高井圭希は無駄に熱い男だ。カレールーの箱に書いてある通りに作っても、これではまだ何か味が足りないだの何だのと、改良するように喚くのは毎回のこと。と言うか、その試作に付き合わされたメンバーの中ではお前が一番料理が出来ないというのに何を偉そうに、とは全員が呆れかえっている。
 ただ、オレにとってはこのカレー作りが悪いことばかりでもなかった。確かに時間も取られるし、カレーばかり食うことになるしで煩わしいとは思うのだが、このカレー作りに顔を貸す一番のメリットは春山さんから押し付けられた大量のジャガイモを消費できるということにあった。
 情報センターを圧迫しているジャガイモは、オレへのノルマと称し押し付けられた分がゼミ室をも押し潰した。センター分に関しては川北が上手いことやって減らしてはくれたのだが、これらのジャガイモをどう消費するかという課題はまだ消化できていなかったのだ。
 北辰のジャガイモをメインに押し出したカレーは、その看板の通りジャガイモがごろごろとしていて食い応えがある。初回の試作の際に何があってもいいようにと用意していた胃薬も、見事にカレーのスパイスとしてぶち込まれた。まあ、味に大した影響はなかったのでそのまま行くことになったのだ。

「徹、注文パネルを……」
「ん、何頼むんだ?」
「サラダを……」
「えっ、福井さんこんなトコに来てまでサラダ食べるの。あっ石川、俺ライス大」

 ピッピッと石川がタッチパネルを触るその脇から、オレは自分の気になるメニューを勝手に割り込みタッチする。どうやら奴も同じものが食いたかったのだろうか、注文数をピッピッとプラスしていたので問題はなかろう。

「何にせよ、肉を食うことは大事だ」
「生命活動維持の観点から言ってもな。牛肉であれば疲労回復の効果も期待できるし、食べる部位によっては鉄や亜鉛といった栄養素も摂ることが出来る」
「……それは、ありがたい……」
「いちいち栄養がどうとかってことを考えてメシなんか食ってないけどな」
「そりゃお前はそうだろう」
「えっ、石川お前、いちいち栄養バランスとか考えるの」
「さすがに毎食ではないけど、さっきこれ食べたから今はこれにしよう、くらいの選び方はするだろ」
「マジで」
「リンは、その辺は……」
「美奈、このものぐさに聞くだけムダだろう」
「わかってはいる……だけど、一応……」
「む。何だ、失礼な奴だな」
「じゃあお前はいちいち栄養バランスのことを考えて食事のメニューを選んでいるのかという話で」
「考えてはない」
「ほらな」

 如何せんオレなんかは食えればいいという考えであるから、適当に買った物を適当に食うだけだ。情報センターでは大体菓子パンのチョコチップスティックをミルクティーと一緒に食うという組み合わせだ。センターでは春山さんが置いている北辰銘菓などを食ったりもするが、所詮菓子は菓子だ。
 ゼミ室の冷蔵庫には一応ヤクルトを入れているが、あれは栄養がどうしたという物でもない。しかしこのゼミで食生活のバランスがどうしたなどと語ったところでそんなことにきちんと気を配れているのは美奈くらいだし、その美奈もゼミ室泊が続けばオレたちと変わらん食になるのだからどうしようもない。

「あっリンお前それ俺が育ててた肉だぞ!」
「知ったことか。名前など書いてなかったからな」
「ちくしょ〜…!」
「お前は血の気が多いから、少しくらい節制をしても問題ないのではないか」
「石川! 何とか言ってくれよ〜!」
「言う義理もないし、何なら俺もリンと同じように思っている。いつまで中学男子のノリでやってるんだ」
「うーわっ、ひでー! つか、男が集まったら中学男子のノリにならね?」
「そもそも、中学男子のノリとは、というところから始まるが」
「えー? リン、お前さあ、同中のよしみでなんかねーの」
「同じ中学と言ってもお前の存在さえ認識していないというのによしみもクソもあるか」

 余談だが、この高井圭希はオレと同じ中学だったらしい。ただ、当時からその存在を認識していないから同じ中学を出ていましたと言われても「はあ、そうですか」というくらいで特筆する情報でもない。
 さて、そんなことを言っている間に先程注文していたものが届き始める。美奈は肉とサラダを交互に食っているし、高井は一気に白い飯を掻き込む。オレと石川は肉をひたすら網の上に乗せるのだ。誰のものだと名前が書かれているワケでもないそれを、横取りされぬようひたすら睨みつつ。

「もーらいっ!」
「高井、それはまだ生焼けだが食うのか」
「牛だし平気じゃね?」
「では、腹を壊しても自己責任ということで」
「大丈夫だろ、コイツは大学に戻ってカレーで閉めれば」
「確かに。カレーに入っている胃薬が何とかするか」


end.


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ナノスパで焼肉と言えば星大組か塩見さん界隈かっていう感じになりつつあります。星大組の焼肉です。
栄養バランスのことなどいちいち考えない面々ですし、美奈でさえゼミ室生活が続けばガッタガタになるよ!
で、件の胃薬カレーな。今年度はトライアウトの様子もやってないし本当にさらっと触れるくらいですね

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