エコメモSS

□NO.3101-
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■カレーの秘密をおしえてよ

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「ふいー、やっぱここが落ち着くなー」
「そうですねー。大学祭の雰囲気も楽しいですけど、ここは落ち着きますねー」
「おかえりなさーい」

 今日から3日間にわたって、星港大学の大学祭が開催されている。今日は平日だから星大の学生ばっかりで人の入りがちょっと少ないけど、土日になるともっとぶわーっと人が増えるんだって。一般の人も来るそうだから。で、今日は平日。つまり、情報センターは平常通り開放されているということ。
 春山さんによれば、さすがに大学祭の最中に情報センターに来るような人はそうそうないそうだ。確かに、まさか大学祭の真っ最中に情報センターが解放してるとも思わないよなあ。一応開放はしてるけど丸1日センターの窓から賑わう大学構内を見下ろして終わるのが毎年の流れだって。
 俺はB番、春山さんはA番で入ってるけどシフトなんてあってないようなもの。2人とも事務所で待機してるような感じだし、なんなら今日はシフトに入ってない冴さんも事務所にいる。せっかく冴さんがいるならと留守番を頼み、俺と春山さんはご飯を確保しに外に出てたんだけど、その間も特に何もなかったって。

「やァー、カレーの匂いが凄いスわ。模擬店にカレーなんかあるンすね」
「リンのゼミが出してるヤツだ」
「へぇー! 林原サンのゼミでカレーなンか出してンすかァー! いいなー、お腹空いてきたスわァー!」
「持ち歩くことを前提にしてあるみたくて、器が凄く頑丈なんですよー」
「まあ、カレーは食べ歩くようなモンでもないからな」

 林原さんのゼミではカレーのお店を出しているっていう話はちょっと聞いてたんだ、本当はやりたくなかったのに無理矢理巻き込まれたって。林原さんが「今年の学祭は散々な目に遭い続けている」って溜め息を吐いてたのは昨日のこと。それは春山さんと組んだバンドのことも含まれてるって。

「しかしまァ具が大きいスねー。春山さん、一口食わしてくださいヨ」
「ああ、食っていいぞ。だけどな冴」
「むぐ」
「ここまで大胆にジャガイモをごろごろとカレーの中に入れてたら、さぞかしコストがかかってると思うだろぉー…? 聞いて驚くな、このカレーは1杯300円だ」
「へぇー、結構いースね! 林原サンが関わってるにしちゃァ良心価格ジャないスか!」
「冴さん冴さん、春山さんの発言の真意はそこじゃないですよ……」
「美味いからいーンじゃないです? この芋がいースね!」
「安定の「北辰のじゃがいも」ですからね……」

 林原さんのゼミで出しているカレーにゴロゴロと入っているジャガイモは、何を隠そう情報センターで春山さんがみんなに配ってたノルマのジャガイモだ。俺は緑ヶ丘の皆さんに食べてもらうことで何とか大量消費に成功したけど、俺よりももっと押しつけられてたのが林原さんで。
 俺も自分のカレーを前に、改めてまじまじと見つめる。うん、美味しそう。そして一口。ジャガイモの食べ応えが何とも言えずいいなあって。ホクホクしてて、器の大きさ以上にガッツリ系カレーになってる。ジャガイモが元手ゼロっていうのがかなり大きいですよねこれは。

「あの野郎、こんなモンでノルマを達成しようとしやがって」
「でも実際林原さんのノルマは凄まじいですからねー」
「このカレー、ジャガイモの他に何か特別なコトはしてあるンすかね」
「ごくごく普通のカレーじゃないですか?」
「いンやァー…? 市販のカレールーだけじゃない何かがあるんじゃねーのかァー…? スパイスか何かちょっと足してねーか? よくわかんねーけど」
「春山さん凄いですね! 俺なんて全然味の違いがわかんないですよ」
「いや、確証はないんだけど、何となくな」

 カレーに隠された味を探すように、春山さんは黙々とスプーンを口に運ぶ。何だろうって隠し味を探す様子がちょっと怖いんだよなあ、眉間にシワが寄ってる所為だろうけど。でも、それっくらいなら情報センターじゃ通常運転だ。でも、本当に変わったような味なんてあるのかなあ。

「スコーンの姉ちゃんがいてごくごく普通のカレーってこたァないだろ」
「林原さんの話を聞いてると、福井先輩は料理が上手みたいですからねー」
「お、カレーの匂いが充満しているな」
「あっ、林原さん! 林原さんも休憩ですかー?」
「ああ。オレも飯にしようと思ってな」

 昼休憩に入ったということで、林原さんもカレーを持って事務所にやってきた。やっぱり、行き着くところはここみたいだ。

「おいリン、このカレーだけどよ」
「ジャガイモの件のクレームは受け付けませんよ」
「いや。何か隠し味的なモン入れてるか? スパイス系かな」
「強いて何が入っているかと問われれば胃薬が入っている。成分のほとんどが生薬だから問題なかろうと。如何せん試作段階で何が出来るかわからんかったからな。念には念を入れて胃薬を用意しておいたら、ひょんなことから全部ぶち込むことになって正式なレシピに採用された」
「おいおい……スコーンの姉ちゃんはそれを止めなかったのかよ」
「薬膳カレーという概念でいいのではないかと言っていたな」
「薬膳とはまたちょっと違うだろ」
「福井先輩って、意外にちょっと大らかなところがあるんですねー」
「アイツは悪ノリをさせたら右に出る者はなかなかないぞ」

 でも、カレーのルー以外に何か入ってるっていう春山さんの味覚は間違ってなかったんだ。胃薬にカレーに負けない味があるかはわかんないけど、それでも少しの違和感みたいな物を感じ取れるって凄い。だけど、薬膳カレーか。胃薬カレーは薬膳カレーって言えるのかなあ。

「どうせ胃薬を摂取するなら普通に薬として飲みたかったぞ」
「って言うか、薬の量は大丈夫なんですか? 1回の用法用量みたいな」
「一応カレー1杯につき1回の用量を超えないように分量は考えてある」

 窓の外には、相変わらずガヤガヤと賑わう様子が見える。明日はもっと賑やかになるんだろうな。明日は俺もきっと外にいるだろうし、大学祭を回るの楽しみだなー。


end.


++++

情報センターの面々はお外できゃいきゃいと言うよりはまったり派が多いように見えて実際そうでもなかったりする
胃薬カレー回です。買ってる話はやったんですが、それを食べてる話はやってなかったと思うのです
でもみんな大学祭をちゃんと楽しみ始めるのは明日からかな? 明日は短縮開放、その次はやってないはずだからねセンターも!

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