エコメモSS

□NO.3101-
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■情報センター・イン・トラブル

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「ここから先は他校生は入れないンで。ジャ、さいならー」

 情報センターの受付から見えるのは、冴さんが誰かに挨拶をしている姿。その冴さんはまっすぐこっちに向かってきて、事務所に入ってきた。はよーごぜーやーすといういつものちょっと崩れた挨拶だ。

「やァーミドリ。今他に誰かいヤすか?」
「B番に春山さんがいて、もうちょっとしたら林原さんが来ませんかねーっていう感じですね」
「そースか、りょーかいス。支度したら代わりやーす」
「はーい」

 ガタン、シャカシャカと冴さんが支度をしている音が背中の方から聞こえてくる。前の方では、さっきから動きのない影がシュッと一本延びてるのが怪しいなって。誰かいるんだろうけど、曲がり角の死角になっててそれが誰かまではわかんないっていう。しばらく見ていると、その角の方から林原さんがやってきた。

「おはようございます」
「あっ、林原さんおはようございまーす」
「土田はもう来ているのだな」
「林原サンおざーす。今ミドリと代わるところでーす」
「そうか。ところで、そこの角に青山さんとは違う背の高い不審な男が立っているのだが、センターの利用者か。星大では見んような感じではあるが」
「あっ、やっぱり誰かいるんですねー」
「川北、心当たりがあるのか」
「全然ないんですけど、ここからだと人の影があるなーっていうのが見えるんですよー。さっきから全然動きがないなーと思って」
「林原サン、どンな感じの男スか?」
「背は180くらいだろうか。細身のモデル体型、濃い顔立ちの男だな。パーマがかかったような髪をしている。金具で多数装飾されたグレーのジャケットを纏っていたと思う」
「あ〜あ、あの人まだいたンすね」

 ――とか何とか話していると、ピーと音がして自習室の扉が開いた。利用者さんが出てきたのかなと思ったら出てきたのは春山さん。多分時間になったのを確認して林原さんと交代しに来たんだと思う。そして春山さんの視線は事務所じゃなくて、反対側の、階段の方にある。

「うおーい、何か怪しい男がいるぞ。ガン見されたんだが」
「土田が事情を知っているみたいですよ」
「何だ冴、お前の男か」
「ヤ、違いマス。星大に遊びに来たから案内して欲しいっつって、学内巡りに付き合ってやっただけスわ。自分バイトなンでって言ったンすけどね、ここまでついてきたンすよ」
「はーっ……」

 春山さんと林原さんが同時に呆れたような溜め息を吐いて脱力している。もしかしてその影の主さんは冴さんのことを待ってるのかな、とスタッフ間では結論づけられた。でも、冴さんのシフトって一応今日は今からラストまでなんだけどな。それまでずっと待ってるつもりなのかな。

「えっ!? 何ですか!?」

 突然、廊下に女の人の声が響く。やめてくださいって、結構逼迫した感じ。よく聞くとその声はカナコさんっぽい感じ。受付から少し身を乗り出すと、カナコさんがこっちにバタバタと逃げるようにしてやってきた。バタンと事務所のドア裏に身を隠したカナコさんは、ずるずるずると力なく座り込む。

「おはようございます!」
「おいカナコ、すげー出で立ちだな」
「はーっ……はーっ……何であの人が星大にいるの…!?」
「おい、自称研修生。座るならイスに座れ。そんなところに座り込まれては外に出れん」
「すみません雄介さん。ちょっと、驚いて力が抜けちゃいました……」

 力が抜けて立てないというカナコさんを林原さんが支え、イスに座らせた。そして、パーテーションを動かして壁を作る。茶でも飲んで落ち着けと自前の紅茶を出してあげる林原さんがカナコさんに対して優しすぎて明日の天気を警戒しちゃってる自分がいる。雪には早いだろうけど槍くらいなら降るかもしれない。

「それで、土田、綾瀬。あの男は何なんだ」
「自分は知りヤせん。大学構内のガイドをしてただけスから」
「では、綾瀬」
「私、夏休みの頃に星ヶ丘大学の映研の作品にエキストラで出てたんですよ。その中にいた人です。間違いありません」
「星ヶ丘の学生か」
「向島大学って言ってました」
「大方その時にカナコに惚れて、素性を調べてここに来たっつー感じじゃねーのか」
「この異常性癖の女に惚れるなど……いや、それを表に出さなければ十分あり得るか。では、綾瀬目当てにここを張っているような感じか」
「でも、そんな感じでもなさそうでした。たまたまとか偶然とか、そんな感じで」
「しかし、どうしたものか。こんな連中でも一応は女子だ、何かあっては良くない」

 だけど具体的な対策は何も出てこないし、どうしようどうしようって。林原さんが言うように、冴さんとカナコさんに何かあってもいけないし。しばらくはこの部屋に隠れててもらって、受付も男か春山さんがやるのが最善なのかなって話になったときのことだった。

「あ、ミドリ。おはよー」
「大石先輩。おはようございまーす。課題ですか? お疲れさまでーす」
「何か、そこに向島のミッツがいるんだけど、何で星大に向島の子がいるのかなあ」
「えっ、大石先輩の知り合いの人ですか!?」
「インターフェイスの3年生だもん。夏合宿にも出てたはずだよ」
「川北、ちょっと話をさせてくれ」
「あっはい」
「理工3年の林原雄介だ。その角にいる不審者に関して頼みがある」
「あっ、情文3年の大石千景です。えっと、頼みって?」
「実は、センターの女子スタッフと研修生がその角にいる男に付け狙われ、今は出待ちされているのではないかという疑惑が浮上している。こんな状態ではおちおち女子を表には出せん」
「ああ、そうだよねー」
「オレやそこにいるバイトリーダーが出てもいいが、オレたちは穏便に済ます自信がない。下手に刺激して暴れられても面倒だ。もしそこにいる男と面識があるのなら、それとなく誘導してこのフロアから追い出してはくれんだろうか。謝礼は弾む」
「わかった、やってみるよー。とりあえず、上手く行ったらミドリに連絡するね」
「はいっ! 大石先輩、お願いします!」

 多分、大石先輩があの人に話しかけてくれてるんだろうなという感じの声が廊下に響き、少しずつそれが遠くなっている。階段を下りたのかなあ。そして、しばらくして大石先輩からメールが届いた。大学の敷地の外に出ることになったよ、と。

「大石先輩ありがとうございます!」
「はー、あんなのんびりしたような奴でもやるモンだな」
「春山さん、ああ見えてUHBCの前代表ですよ!」
「しかしリンよォ、謝礼は弾むって、どんな謝礼だ? まさか冴パイ触り放題の権利とかじゃあるまいし」
「それは、そこにまだ積んである「北辰のじゃがいも」1ケースでいいだろうと」
「確かに、1ケースくらいなら報酬ですねー」
「そういうことだから川北、サークルの先輩なら1ケース届けておいてくれんか」
「わかりましたー」

 今日は大石先輩の活躍でどうにかなったけど、今後がどうなるかはまだわからない。それに、林原さんと春山さんじゃ確かに穏便には済まなさそうだし。あっ、もしかして、噂の誰にでも惚れる人!? そう言えばそんな話があったような気がする! 男だし半分聞き流してたけど、本当にあるんだ!


end.


++++

三井サンが冴さんを追いかけ回してたこともあったなあと思って引っ張ってきました。カナコもおまけに。
だけど、話の規模が大きくなるわなるわ。ちーちゃんまで出てきて大変なことに。ちーちゃんが活躍するのはエコ贔屓対象だからですね
しかし、それこそリン様と春山さんがちょっと脅せば三井さんビビりだからすーぐあきらめて帰ったんじゃないかなと思うんだ

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