エコメモSS

□NO.3101-
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■復習で察する

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「ういーす」
「あっ、春山さんおはようございまーす。あれっ、でもシフト入ってなかったですよね?」
「細かいこたいーんだよ。お前ら、アメリカンドッグ置いとくから好きに食えよ」
「わー、ありがとうございまーす」

 11月下旬、情報センターはまだ落ち着いているけど、先輩たちが言うには12月中旬を過ぎる頃からセンターの利用者が増えて来るそうだ。4年生が卒論ラッシュを掛けに来るというのもあるし、3年生は就活に関する調べものをしたりする。他にも年末になると課題も増えて来るそうだ。
 とは言えまだまだ落ち着いているので、事務所も落ち着いた様子。今はB番に林原さんと冴さんがいるけど、程よく自習室の状況を見ながら入れ替わったり休んだりすることになる。今は放課後で、5時過ぎだからこれから人が増えることはそうないかな。

「はあ」
「あっ、林原さん休憩ですかー?」
「ああ」
「林原さん、春山さんがアメリカンドッグを差し入れてくれましたよー」
「ほう、これか。ちなみに春山さん、これは市販の物ですか」
「いや、私が作った」
「これを食うことで後にロクでもないことを要求されたり」
「しねーよ。ただ作っただけで裏も何もねーから食えよクソ野郎」
「クソ野郎などと言われる覚えもありませんが、裏がないと言うならありがたくいただきます」
「あ、川北も食えな」
「はーい」

 ――と、勧めてもらったそれを食べる。さすがに揚げたてのあつあつほかほかって感じではないんだけど、まだほんのりあったかいから作ったばっかりではあるんだろうなあ。えっ、って言うか作ったの!? 売ってるのとそんなに違わないような気がするんだけど。えっ美味しい。
 林原さんも黙々とアメリカンドッグを食べてるし、まだたくさんあるのを確認したからか、淡々と2本目に手を伸ばしている。俺も2本目を食べちゃおうかな。でもこんな時間にこれだけ食べたら夕飯は食べなくても大丈夫そう。でもラストまでいるし、それこそアメリカンドッグくらいの軽食で済ませようかな。
 でも、最初に林原さんがいろいろ警戒してた気持ちもわかるんだよなあ。春山さんのやることだから、とんでもない規模なんじゃないかとか。今目の前にあるのは10本くらいだけど、後から100本くらい出て来るんじゃないかとか。ううん、さすがの春山さんでも100本も家では作らないか。

「春山さん、こんなのも作れるんですねー」
「これくらいならホットケーキミックスとウインナーがあればすぐだろ。コンビニとかに買いに行くのがめんどくさかったんだよ。たまたまつまみ用のフランクフルトがあったし作ってやれと思って」
「作る方が面倒だと思うがな」
「そうですよ。コンビニに行く方が早くないですか?」
「いや、今絶賛スターウォーズ復習マラソンやってる最中だし、再生してる時は極力止めたくねーんだ。コンビニに行くときは再生を止めなきゃいけないけど、台所に立ってる分には再生したままでイケるからな。ちなみに今はキリ良しだから来た」
「何か今聞き捨てならんことを言ったな」
「気の所為だ」
「まさかとは思うが、来月のシフトを確認させてもらおうか」

 何かに気付いたらしい林原さんが、アメリカンドッグの串をお皿の上に置いて来月のシフト表を手にする。まじまじとそれを眺めていたと思えば、大きな溜め息がひとつ。きっと、春山さんの欄に何かあったんだろうけど、えっ、どうなってるの?
 そう思って林原さんが持っているそれを覗き込んでみたら、春山さんの欄は12月14日から25日まで真っ白になっている。つまり、結構長い期間来ないってことだよね。林原さんが溜め息を吐くのはわかるんだけど、何がどうしてこうなってるの?

「はーっ……冬休み前とかいう、小規模とは言え繁忙期に片足を突っ込みかけている時に、2週間弱も穴を開けますか」
「必要な休暇だ」
「どうせSW休暇でしょう。まったく」
「もうホテルも取ってるしその前にはガチ復習をするからな! つーかいつまでも4年に頼ってんじゃねーよ」
「えーと、林原さん?」
「そうか、お前は知らんのか。この人は、スターウォーズの公開前後には過去作の復習と最新作の反復などと銘打って長い休暇を取るのだ」
「映画のためだけに、ですか?」
「その通りだ。公開日には丸1日同じ作品を何度も繰り返し見るために映画館に籠もるしだな」
「えっと……春山さん、卒論は大丈夫なんですか…?」
「そんなモンもうすぐ終わるに決まってんだろ。何ならそんなモンを抱えて12月なんか迎えられねーからな。私の締め切りは11月末日だ」

 スターウォーズにかける春山さんの熱が俺の想像以上だった。まさか映画のために卒論をこんなに早く終わらせるだなんて。でも、後に回すよりは先に終わらせといた方がラクだし、心配事のない状態で映画を楽しめていいとは思う。
 あと、こういう感じなら映画を一時停止してコンビニに出かけるのが嫌なんだなっていうのも少し納得したと言うか。春山さんくらいにもなれば、音声があれば映像はもう頭の中で流れて来るそうだから、台所で音声を聞きながらアメリカンドッグを作ってたんだなって。

「しかし、どうしてアメリカンドッグだったんです。フランクフルトのままでもよかったのでは」
「いや、揚げた生地の美味さってあるだろ」
「それはわかります」
「そういうことだ」
「って言うか林原さん、それ何本目ですか? 結構食べてません?」
「まだ3本目だが」
「川北、お前も食えよ」
「あっはい」


end.


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春山さんは自宅で結構料理をする人なので、思い立ったときに思い立った物を作ってるといいなと思いました
映画休暇の要素とアメリカンドッグの要素をぶち込んだ無理矢理なお話。しかしリン様は食い過ぎである。仕方ないね、目の前にあるんだから。
今年のインフルエンザは早いと言うし、そろそろ人の大事な時にインフルをやらかす誰かがうんたらこんたら

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