エコメモSS

□NO.3101-
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■恋愛談議に灯がともる

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「それで、春だか運命だか知らんが、そろそろ違う対象に移らんものか」
「今は本当に盲目状態なんで、しばらくは難しいかもですね」
「はーっ。……どうしたものか。えーと、火はどうしたか」

 土田とそれに惚れているらしい男を巡るトラブルは、情報センター全体を巻き込んでまだ続いていた。その男は、土田に大学構内を案内してもらったのをきっかけにセンターの前で待ち伏せをするようになった。どうやら奴は綾瀬とも因縁があったようで、土田または綾瀬の姿を確認すると、気色悪い笑みを浮かべているらしい。
 川北、それからその先輩である大石という男の話によれば、奴は向島大学の学生だという。放送サークルの人間であるということで、今では幽霊部員とは言え他校の人間と交友のある美奈にこの件について少し相談したのだ。かれこれこういうことになっているのだが、と。
 そしてその話は伝いに伝い、向島大学にまで届いたらしい。それというのも、美奈の友人(石川に言わせれば親友と言っても過言ではないそうだ)が奴と同じサークルにいるというのだ。それなら、奴の扱い方や対策などを聞いておきたいと思ったのだ。来週からは構成員がスターウォーズ休暇に入る。事態は一刻を争った。

「……リン。菜月は、気管支が強くない……悪いけど、煙草は……」
「そうか。それは失礼した」
「いえ、こちらこそ」

 女子を表に出せない状態で、かつ奴のことを気に掛けながら小規模な繁忙期に入っていくと不便極まりない。学生課も那須田さんも当てにはならんので、自分たちでどうにかするしかないのだ。春山さんがいなくなると、その分オレを始めとした男子の負担が大きくなるのだ。
 今日は閉めの作業を春山さんと川北に任せ、オレは普段より早く上がることに。同じくバイトを終えた美奈と合流して豊葦方面へと向かった。その目的は、奴の情報を得るということ。美奈のツテでその友人を紹介してもらい、食事でもという流れだ。
 しかし、いざ会ってみると全くの初対面というワケではなく、少し前に猫カフェで会っていた。尤も、そのことがなければ美奈がオレと会わせなかったとか。やや強めの人見知りなんだそうだ。美奈の愛猫、マリーに懐かれているという共通点で互いに警戒心がやや解れていた。

「菜月、何が食べたい…?」
「えっ、うちは特に考えてないけど、えっ、2人は?」
「偏食だと聞いているが。考えなくていいのか」
「あ、えーと、生野菜でなければ大体は食べれるし」
「強いて言えば……私と菜月は、お好み焼きが続いている……」
「鉄板系は除外、と。さあ、希望があれば今のうちだぞ」

 結局、菜月の紹介で向島大学近くにあるビニールテントのような幕を張ったラーメン屋に行くことになり、赤提灯が下がりオレンジ色の電球が灯る店の中に入る。ビアガーデンでもないのにテントの下での飲食。星港や西海でこういう店に入ることはないから、なかなか新鮮だ。

「ここのおでんは絶品なんですよ」
「ほう、おでんがあるのか。クソッ、酒があるな。熱燗など、最高ではないか」
「……リン、帰りは、私が運転する…? 大学に泊まるなら、泊まる……帰るなら、私の車で送る……」
「ほう、頼めるか。一応言っておくが、保険の関係もある。くれぐれも普段のような運転はするなよ」
「……む。私を、何だと」
「スピード狂ではなかったか」
「……ほんの少し、法定速度より速い程度……」
「ほんの少し! どの口が言う」
「……今度、覚えておいて。もう、バーゲンの季節は始まっている……」
「いいだろう。返り討ちにしてやる」

 美奈の「お前から金を毟り取ってやる」という宣戦布告には、真正面から受けて立つ。この季節の麻雀大会はリアルに物要りな季節だということもあって皆殺伐としている。それぞれの生活のためにも、金を失わないようにしなければならないのだ。

「それで、本題だが。あの男をどうにかしたい」
「三井の対処法を一言で言うなら、無視が一番効く。典型的な構ってちゃんだから」
「無視か。しかしな。来週からはバイトリーダーがスターウォーズ休暇に入る。学期末に片足突っ込んだ状態で戦力が減る中、あのようなことに労力を割かれたくなくてな」
「無視です。とにかく。最近は新しく好きな子が出来たっていう話を聞かないんで、まだサエちゃんを狙ってる状態かと」
「土田も土田だ。奢ってくれるって言うから食事に行く? そのようなことをするからつけ上がるのではないか」
「そうだ、美奈。ウチのりっちゃんてわかる? 2年生のミキサー」
「……ああ、あの子……あの子が、どうかした…?」
「今三井が付きまとってるサエちゃんて、りっちゃんの双子の姉さんなんだって。あのりっちゃんが悲壮感を纏わせてうちとノサカに相談してきてさ」
「ああ……」

 こちらでは学生課に訴えてダメだったこと、センター前での出待ちは延々と続いていることを訴えたが、奴の対処法は無視だというそれ以外にないそうだ。他にないことはないが、それは奴を圧倒し一瞬で敗北を認めさせる圧を放った上でのド正論で完膚なきまで叩き潰すという手法だそうだ。
 基本、奴は惚れた女に告白して玉砕するまでは諦めるということをしないそうだ。つまり、土田に対して動きを起こさねばセンター前での出待ちは終わらんということだ。最悪のシナリオは、土田がダメなら綾瀬に行こうと狙いを変えて出待ちを続けるという流れだ。

「まあ、基本三井はオーバーキルする勢いで畳みかけるようにボコボコにしてやれば負け惜しみ吐いてどっか行きますよ」
「それならば、オレと春山さんの通常運転で一発だったではないか…! 穏便に済ますなど情報センターらしからぬ誤った選択だったな…!」
「うちからも犯罪紛いのことは止めるよう言っときますけど、来週になってもまだアイツが出待ちをやめないようならやっちゃってください。リンさんゴーです」
「かたじけない」
「それよりおでん食べましょ。あっ美奈、リンさんお酒切らしてる」
「飲んでますか……」
「もらおうか」
「うちの周りは軽い男ばかりいるんでアレなんですけど、リンさんはもし好きな子が出来たらどういうアプローチをするんですか?」
「こうも女というのは恋愛談議が好きか」
「嫌いじゃないですね」
「まあ、オレとて一般的な男ではあるから、見栄ではないが、多少はいいところを見せようとしたりだな」
「ほうほう。デートの勝負コースなどは?」
「美奈の前でそのようなことを言うと、このネタを何に使って来るかわからんからな。好敵手には不用意にそのような材料を与えん主義でな。尤も、そのようなことで揺らぐタマでもないが」

 ――と言えば、美奈はどこかムッとしたような顔をしている。

「……リン、ポテトグラタン……デートの勝負コースで、焼きたてアツアツ……」
「む」
「プラス、恋愛観で、別日にオムライス……」
「ひとつ条件を付けよう」
「……何…?」
「石川にだけは死んでも言ってくれるな」
「……その程度であれば」
「って言うかリンさん普段から美奈の料理食べてるんですか!」
「ああ、まあ、多い時は週3、4ほどか。親の料理より食っとるかもしれんな」
「羨ましすぎる……えっ、ズルっ」


end.


++++

三井サンの乱を経て、相変わらずリン様が苦心している様子。そんだけ不審なんやろなあ。
というワケで、リン美奈と菜月さんというナノスパ初期の頃にかわいいかわいい言ってた組み合わせの復活です。
リン様も何気に食べ物で釣れるのね。腹に入れば一緒だという考えではあるようだけど、美味しいものはやっぱり正義よ

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