エコメモSS

□NO.3101-
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■××の気分で

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「ちょっと待って!? 本っ当に! ムリ! ダメ! 朝霞クン俺に何の恨みがあるの!?」
「恨みはねーけど、直感で見たいと思ったのがこれだったんだよ。つか騒ぐな。好きなの見ろっつったのはお前だろ」
「だからってそのチョイスはなくない!?」

 今日明日の日程で、俺は山口と1泊2日の日程で向島のお隣、白影エリアに遊びに出ている。アウトレットで買い物をしたり、巨大庭園でイルミネーションを見たり温泉に入ったりと、普段はなかなか出来ないことをたくさんやってとても充実している。
 この旅行のプランを立ててくれたのは山口で、宿の手配だのバスの手配だの、そういう手続きめいたものを全部やってくれていた。俺は当日来るだけでいいからねと言われていたから本当に来ただけだったんだけど、段取りの良さは素直に感心するし、尊敬の域に達する。
 宿代を安く上げるためにホテルはダブルルームなんだけど、ベッドはそこまで特別狭さを感じないしこれはこれでアリ。実質寝るだけの部屋だから、広さだの居心地だのにこだわる必要は特になかった。だけど山口は俺がVODで映画を見たがるだろうと予め遅めのチェックアウトプランにしていたのが完璧すぎかと。
 そこまでしてもらっているならと、俺は遠慮なく映画を見させてもらうことにした。まあ、この感じなら2本くらいは行けるだろうか。1000円で好き放題映像コンテンツが見られるのは本当にありがたい。それに、こういうところの作品ラインナップって、結構レアなタイトルがあったりもするんだ。

「やだよ〜、冬にホラーなんて流行んないよ〜、楽しいのにしようよ〜」
「ええ……」

 ところで、山口という奴はホラーが苦手だ。厳密に言えば特に苦手なのは和ホラーで、洋ホラーはちょっと怖いと思う程度だそうだ。そんな奴と一緒にいるのに俺が選んだのが和ホラーの映画というのが空気の読めなさだ。いや、でも見たかったんだから仕方がない。
 そもそも、苦手と言っても全く見れないわけでもないのは知ってるんだ。何せ、部活の現役時代はステージの参考にするために映画マラソンをしていた。その中で和ホラーの集中日というのを作ったこともあった。俺の腕を取ってぎゃあぎゃあ騒ぎながらも見ていたはずだ。
 それが今は、一時停止してやった画面を絶対に見るまいと布団をかぶり、さらに俺の背中に頭をくっつけてガタガタ震えているのだろう。前はここまで大袈裟な怖がり方をしてなかったと思うけど、どうしたものか。

「朝霞クン、他の映画じゃダメ?」
「ダメじゃないけど、他のは見たことあったり優先順位が低かったりするからなあ」
「昔の朝霞クンだったら片っ端から見てたじゃない、ステージのためって言って」
「言って今は何か書いてるワケじゃないからな。何かの参考にするワケでもないし。純粋に映画鑑賞という趣味のための選択だ」
「ゴメンだけどさ、これは1人の時か俺以外の人と一緒に見てくれない? ホントに俺ホラーはダメなんだって」
「わかったよ。でも、お前ここまでホラーダメだったか? 前に一緒に見たときはここまで怖がってなかったはずだろ」
「あれは俺がステージスターだったからステージのため、朝霞クンのために我慢出来ただけで、ステージスターじゃなくなった今は我慢する必要もないでしょ?」
「まあな。と言うか、お前は何か見たいのはあるか」
「いいよ、朝霞クンが好きなの選んで」

 番組案内片手に、そして逆の手にはリモコンを。サンプル映像を見ながらどれが見たいかなと改めて選ぶだけの作業を。こういうVODサービスの「バラエティ」というジャンルはパチスロ番組が多いなあとか、たまにはお笑いなんかもいいなあと目移りしてしまう。

「山口」
「なに?」
「俺が部活引退してて良かったな」
「何で?」
「いや、もし現役だったらステージのためとか言ってアダルトコンテンツの利用法を考え始めてたかもしれないなと思って」
「朝霞クンだったら本当にやりかねないから困るよ。で? 一緒にAV見てこれの何がステージに活用出来るか至極真面目に考える会議? シュール過ぎない? ってか朝霞クンお酒回ってる?」
「いや、そこまで」
「とか言って、ビール園でも結構飲んだし、それ部屋に入ってから2本目だからね。ホテルの缶ビールって割高だよ?」
「関係ないけどさ、俺って不感症なのか?」
「知らないよ。何で?」
「さあ」
「さあって! 俺はもっとわかんないからね!? はーっ……朝霞クン、男で良かったね。これ、女の子がそゆコト言ったら「試してみる?」って喰われるシチュエーションでしょ」
「おっ、すっかり元気になったな」
「朝霞クン、もしかして怖いの和らげてくれるためにわざとこんな支離滅裂な話してたの?」
「いや、全然」
「ちょっと」

 背中に軽く一発をもらい、そろそろ本当にお酒やめなよ、と奴は俺を窘める。不感症云々の話は不感症という言葉を選んだのが間違っていて、単純に「仕事と私のどっちが大事なの」的なアレをよく言われるというだけのヤツだ。
 一緒にいてもムードの欠片もないとか、普通そこは抱いてくれるところじゃないの、的なダメ出しをされまくった覚えがあるようなないような。付き合った相手のことはよく覚えてないんだけど、大体そんなことを言われて愛想付かされるパターンだった気がする。

「あっ、性欲か!」
「なに、突然どうしたの」
「あー、すっきりした。そうだ、性欲だよ」
「待って、1人で解決しないで!?」
「いや、さっきの正しい質問の仕方だよ。不感症じゃない。俺って性欲ないのかが正解だ。山口、俺って性欲ないのか?」
「知らないけど、少なくとも朝霞Pにはなかったよ」
「はー……つまり、実験をするいい機会なのかもしれないな」
「ちょっと待って? 何する気?」
「いや、AV見て抜けるかの実験?」
「あの、朝霞クン、それこそ1人の時にやってくれない? って言うかお酒没収! あー俺お笑い見たいなー!」
「ちょっ、ビール!」
「さすがに飲み過ぎでしょ。発言が意味不明すぎ。だけど、可能性を考えるとするなら、お酒を飲んで暴かれた朝霞クンの密かなる願望かもしれないね。今まではストイックにやってきたけど、本当はエッチなことにもちょっと興味があります、的な?」
「ほうほう」
「――って、本気に解釈しないで!」
「とりあえず、お笑い見るかー」
「だからって急に話戻し過ぎでしょ!?」


end.


++++

ナノスパ年忘れスペシャル。洋朝のクリスマスデートが恒例行事になりつつあります。しかしどんな話しとんやお前ら
やまよのホラー苦手設定だけど、長野っちの所為でちょっと重症化したという話があったりなかったり。
ステージに関係ない朝霞Pとの付き合いは始まったばっかりなので、扱い方がまだイマイチよくわかってないやまよがうまーなヤツ

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