エコメモSS

□NO.3101-
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■求める人肌に宛てて

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 朝霞クンとの旅行2日目。観光とかいろいろしたいな〜と思ってたけど、レイトチェックアウトプランの時点でいろいろ計画に無理があったかな、と帰りのバスの車中で少し反省中。隣の窓側に座る朝霞クンは朝の6時前まで映画を見てたからすっかりお疲れモードで、この時間を睡眠に充てている。
 我ながら、少し毛色の違う恰好をしてるなと思う。白のコーデュロイシャツに、黒のカーディガン。それから、赤色のチェックのパンツ。薄手のダウンジャケットを羽織って。これは昨日、アウトレットモールで買った全身セット。コーディネートが苦手な俺に、朝霞クンが選んでくれたんだ。
 俺を着せ替え人形みたいにして何が似合うかなって選んでくれてたんだよね。朝霞クンは自分の服も見てたみたいだけど、自分の服はどう選んでもいつもと一緒になっちゃうから自分がやらないスタイルで組み立ててみたいって言ってて。だけど、俺が朝霞クンスタイルをやってみたかったっていう理由でこんな感じに。
 何着ても似合うとかズルくないかと小突かれちゃったけど、俺はコーディネート能力が致命的に欠けてるっぽいから、結果として何か変なんだろうね。朝霞クンAIを俺のクローゼットに搭載して、毎日のコーディネートをやってくれればいいのになということは、割と真面目に考えている。
 当の朝霞クンは、腕時計を買っていた。普段使いも出来て就活にも使えるような物というテーマで考えてたみたい。俺たちは大学3年生。就職についても少しずつ考えて行かなきゃいけない段階に入っている。俺はいずれ自分の店を出すために修行の日々だけど、朝霞クンはどうするんだろ。

「あ」

 朝霞クンがうつらうつらして、頭が傾く。口元からつーっと一筋、垂れてくる線。股の間を通って、床を濡らす。天界から垂れ下がる糸みたい。蜘蛛の糸かな? さすが朝霞クン、読書家だから。――ってそうじゃないそうじゃない。

「朝霞クン起きて!」
「ん、ぁ…?」
「朝霞クンめっちゃよだれ垂らしてるよ!」
「え…? ……うわっ冷たっ! つか汚ね! 大惨事じゃねーか、もっと早く起こしてくれよ」
「いやあ、あんまり綺麗な筋だったから思わず見とれちゃってさ」
「意味がわかんねーよ。えっと、ティッシュか何かねーかな」
「ティッシュならあるよ。はい」
「サンキュ。あー、つか恥ずかし過ぎね? 今までアホ面晒して爆睡してたってことだろ?」
「今更じゃない? 朝のことを思えば」
「いや、あれはホテルの一室だからまだセーフじゃんか。バスは公共の場だし公衆の面前に晒されてるワケだろ。ちょっと違う」

 ちなみに今朝の朝霞クンは、俺の上に覆い被さるようにして寝てたよね。何か重いな〜と思って目が覚めたら、俺の上で朝霞クンが寝てたんだ。彼女ともしたことないくらいの密着っぷりだったよね。しかも、何が性質悪いってがっちりホールドされてて身動きが取れないところだよね。力が強いんだよ、朝霞クンでも男だから。
 覆い被さられたまま何とか横向きに体勢を変えたけど、横向きになったらなったで今度は首に腕が回ってくるし、脚を絡めて擦り合わせてくるんだよね。朝霞クンて抱き枕とか使う人だったっけって思わず確認したよね。安いじゃんってダブルの部屋にしたことを正直ちょっと後悔した。

「それで目覚めて俺のどアップだったからって怒られるのも何か違くない? 俺いっこも悪くないからね?」
「お前が熟睡するのに最適なぬくさだったのが悪いと思わないか」
「ムチャクチャだよ。少なくとも、男が男にする寝方ではないよね」
「下手すれば一生分の人肌を感じたかもしれない」
「朝霞クン、もしかしてまだ寝ぼけてる?」
「メチャクチャ眠くはある。いや、つかアレだろ。俺が起きたときは、お前が俺の背中だの腰だのに腕を回してたんだろ。だから俺はお前のどアップにビックリして飛び起きて」
「朝霞クンが放してくれないから諦めて二度寝したんじゃない」
「あっでも、お前の寝顔って初めて見たかもしれない。寝顔もイケメンってズルくね? 間抜け面じゃねーのかよ」
「うーん、それはこう育っちゃったから、仕方ないよね?」
「クソッ」
「……やめよっか? バスの中でする会話じゃないよね」
「……ああ、そうだな。公共の場でする会話じゃなかった」

 聞く人が聞いてしまえば完全にカップルの痴話喧嘩だ。だけど、俺は朝霞クンに湯たんぽ代わりにされてしまっただけだし、抱き合う距離感で寝ていたとしても何か間違いが起こるとか起こったとかではない。でも、朝霞クンの寝相じゃないけど、こんなことを誰にでもしてたらそれはそれで問題だよね。
 垂れたよだれの染み込んだティッシュを握り締め、朝霞クンは今度こそ星港まで起きてるんだと鼻息を荒くしている。そう上手くは行かないと思うけどね。でも、せっかく張り切ってることだし俺は見守っててあげよう。それで、もし寝ちゃいそうになったらつついたりして起こしてあげなきゃ。

「ねえ、朝霞クン」
「んー…?」
「今後、恋愛する予定ってある?」
「しようと思ってするモンでもねーだろ。結果、そうなることはあったとしても」
「なるほど。朝霞クンは彼女欲しいとか恋がしたいってガツガツ動く方でもないってコトだね」
「そう言うお前はどうなんだ」
「それ聞く? 知ってるクセに」
「まだ吹っ切れないのか」

 メグちゃんと別れて2年弱になるかなあ。それからもずるずる引きずったままここまできていた。部活を引退したら大丈夫かなあと思ってこないだ改めて告白したけど改めてフラれちゃったよね。付き合う前に2回。それから、別れたときとこないだ。3年目で計4回フラれたことになる。

「いっそメグちゃんに彼氏でも出来てくれれば諦めようもあるんだろうけど、俺って結構嫌な奴だからさ、多分その彼氏に対しても俺の方が全然いい男じゃないって思っちゃうんだよねえ」
「お前は実際いい男だし、いいんじゃないか? そう思うくらいは」
「待って? 朝霞クンから褒められると変な感じがする」
「いや、事実を言ってるだけで全く褒めたつもりはなかったんだけどな。じゃあ、どういう相手に取られたなら宇部を諦められるんだ」

 ――と、思い返すのは一昨日の班長会鍋。正直、朝霞クンとメグちゃんが通じ合ってるあの感じにすらちょっと妬いちゃってたからね。俺そっちのけでいつの間に2人がそんなに仲良くなってんのって。でも、いい光景だなって思っちゃったのも事実。互いの長所を認め合って、欠点を補い合える2人だってことを知ってるからね。

「うーん……朝霞クン、かなあ」
「一生諦めないってコトじゃねーか。じゃあ4回や5回フられたくらいでうじうじ言ってんな」
「えっ、朝霞クンメグちゃんはそういう対象にない?」
「ない。盟友ではあるけどそんな対象ではないし、お前のこともあるしな」
「は〜、でもちょっとホッとした」
「何がだよ」
「朝霞クン以外の男だったらどこかに勝ち目があるけど、朝霞クンだったら絶対勝てないからね」
「それはどうかと思うぞ」
「男としての優劣とかじゃなくて、こう、相性的な問題で?」
「それ、男としては自分の方が優れてるって言いたそうだな?」
「そんなことないよ! あっじゃあ朝霞クンあの子は? 映研さん。あの子は恋愛対象にない?」
「ない。クリエイターが恋愛対象になることはない。つか、バスの中でする話じゃないし、そろそろ静かにしないか? で、俺は寝る」
「星港まで起きてるんじゃなかったの」


end.


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洋朝がきゃっきゃしてるだけのお話。バスの中やぞうっせえなお前ら
最近はリン様相手にその強烈な寝相じゃないですけど、そういったアレを披露していますが、原点はやはりやまよである。いや、こっしーさんか?
そしてやまよはまだうじうじしてるけど、うじうじしてるくらいの方がやまよっぽさもちょっとある。ステージスターでない山口洋平さんね。

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