エコメモSS

□NO.3101-
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「いよーう! 芹サンが帰って来たぜ!」
「今年のセンターは今日で通常開放が終わるが、今更何を」
「ンだとてめえ! せっかく人が帰って来てやったのによ! つか映画休暇が長すぎるだのなんだのとうるせーのはオメーだろ!」
「まあ、何にせよ秋学期の講義も中断していますから、今日の利用者はいつもより少ないくらいでしょう。掃除をするにはちょうどいいですね」
「でだ、私がいない間に何か変わったことは?」

 年内の情報センターは今日で閉所することになっていて、年末年始の後は1月6日からまた開放することになっている。授業は今週頭に終わっていて、冬季休業に入っているのでセンター利用者はほぼほぼいないと見ていいだろう。大掃除をするならこのタイミングだといるメンバーとは前々から話し合っていた。
 春山さんは15日からスターウォーズのために10日間ほどの休暇を取得していた。年末は卒論や課題などのために利用者がやや増える傾向にあり、そんなときに最も経験のあるバイトリーダーが長期離脱するなどあり得んと思うが、それを平然とやってのけるからこそ春山さんなのだろう。さすがの構成員だ。
 その間、オレがバイトリーダー業を代行していたが、その間にあった変わったことはと言えば……例の不審者問題がオレの精神的ダメージと引き換えに解決したこと、それから、相変わらず卒論だの何だのを巡って暴れ散らす阿呆がいたが、それらを制圧したことだろうか。那須田さんは相変わらず使えんかった。
 
「特に変わり映えもなく。春山さんがいないことで休憩の時間があまり取れなかったというくらいで。しかも何をしれっと1日休暇を伸ばした」
「そーいやよ、あの不審者はどーなったんだ? 今来るときはいなかったと思うけど」
「かの件については解決済みだ」
「おっ、マジか。どーなったんだ?」
「特筆することでもない」
「チッ。テメーの口から言えないなら別の奴に聞くまでだ。おーい、川北、どーなったんだ?」
「えっとですねー、あれから冴さんは三井さんに誘われて食事に行ったそうなんですが、そのお店っていうのが林原さんがピアニストの仕事をしてる洋食屋さんだったんですって。それで三井さんはディナータイムのピアノを弾いてた人に新しい運命を感じたそうなんですが、その日ピアノを弾いていたのが林原さんで……結果として冴さんに対する運命っていうのはそれで終了しました」
「だーっはっはっは! ひー…! ケツくらい貸してやったのかよ!」
「……予想通りのリアクションですね」
「だから言っただろう」

 春山さんのリアクションがこちらで話していた通りだったことに、答え合わせが出来た気分だ。それはそうと、奴の春に関しては件のピアニスト……つまりオレが男であるということを伝えてくれと美奈経由で菜月に頼み、それ以来音沙汰がないことから現在は冬の時代に入ったのだろう。
 奴がセンターの前で出待ちすることがなくなったことで最も生き生きしていたのはセンターの研修生を自称する綾瀬だ。以前因縁があったそうだが、それ絡みで綾瀬が異様に怒っていたのは記憶に新しい。クリエイターへの冒涜には敏感なようだ。

「まあ、何にせよ今ではセンターも平穏を取り戻し、学内の業務にのみ集中することが出来る」
「ま、年が明けたら卒論の印刷だの何だので人が押し寄せるからな。備品は大丈夫か」
「抜かりありません」
「ならいい。じゃ、掃除するかー」

 各々の持ち場につき、それぞれ掃除道具を手に散る。オレと川北、そして烏丸は自習室を。春山さんと土田、それから綾瀬は事務所の掃除にかかる。川北は机の下に潜り、落とし物などがないかを確認する。烏丸はコロコロと掃除機をかけていく。
 オレは備品や機器の状態を確認して、新年にまっさらな状態で業務が始められるように必要があれば設定を直すなどしていく。センターのマシンはログオフ・シャットアウト時に設定が自動的に初期設定に戻るようになっているが、それでも無許可でダウンロードされたものが残っていないとも限らない。
 国立大学なのだからこういう学習支援教室には業者が掃除に入ってもいいだろうとは思うが、何故かこの部屋はスタッフが掃除することになっているらしい。普段から働くスタッフがいるからか、要らん出費を抑えたいためか。

「あイタぁっ!」
「ミドリ、大丈夫?」
「あ、よくやるんで平気ですー」

 机の下に潜った川北が、それを忘れて体を起こし頭をぶつけるのはよくあることだ。川北はシャーペンやゴミなど、机の下の物を順調に拾い上げている。烏丸はコロコロがお気に入りのようで、日々の閉所業務でも積極的にコロコロを掛けに行っているほどだ。
 オレの方は、現状それらしい違反ダウンロードなどは見つかっておらず、大きな設定変更などは必要なさそうだ。プリンターの方も紙は満タンまで補充してあるし、予備もある。卒論の印刷ラッシュにもしばらくは耐えられるだろう。

「おーい、リーン」
「はい」
「なっすんがこれで飯でも食いに行けって金置いて帰ったから、これ終わったら忘年会やるぞー」
「どこかに食べに行くんですか?」
「食べに行ってもいいし、年末だしめんどくさいなら川北の部屋かどっかで鍋でもやったらいいんじゃねーか?」
「わかりました。ではそのように」
「えっ!? 俺の部屋ですか!?」
「足の踏み場が無いようなら別に考えるけど」
「帰省の準備でちょっと今かちゃかちゃですねー」
「それは私の部屋も同じ条件なんだよなあ。もれなくスターウォーズ一挙上映が始まるぞ」
「それは勘弁願いたいな。全て見終えるまで解放されんだろう」
「あっ、じゃあ俺のへ」
「ダイチの部屋は大人数が集まるには不向きなんだよ。闇鍋やるならともかく」


end.


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情報センターの年納めです。春山さんは昨日までお休みだったので久々の出勤ですが、本年はこれで最終日です。
春山さんのいない間の10日間には三井サン事件が解決したり、人が少し増えたりということがあったようです。
春山さんやミドリはこれから帰省するみたいですね。リン様の年末はライブに忙しいようです。

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