エコメモSS

□NO.3101-
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■何度目の年忘れ

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 星港高校卒の連中が集まって忘年会を開催するというので、お呼ばれすることに。会場となっている伊東の部屋には、既に豪華な料理が並んでいた。バーコーナーのように酒が固められた一角も形成されており、オレも持参した物はここに置いておけと指示された。
 今日の参加者は幹事の川崎に会場提供者の伊東、それから高崎、浅浦、そして今は紅社から帰省してきた越野、そしてオレだ。この中なら川崎が一番会うだろうか。その他の面々は、紅社にいる越野は論外として、緑大に通う3人とすらあまり会わない(そもそも高崎と浅浦とは在学中にあまり絡みがなかった)。
 しかし、高崎とは年末に行われる青山さん主催のシャッフルバンド音楽祭なるイベントの関わりでセッションをした。オレと青山さんが路上ライブの合わせをしていたところに川崎とスタジオ練習に来たのだ。
 何にせよ、久々になる面々の多い場に呼んでもらえるのもそうない機会だ。オレは今年のバイトが情報センター・洋食屋ともに終了しており、年末の休みに入っている。無礼講にはちょうど良かろう。酒も少し多めに用意してきた。

「すまない、もう始まっていたか」
「ううん、リンちゃん来たら始められるようにしとこーって準備だけ念入りにしてたって感じ」
「そうか」

 オレの到着で参加者全員が机を囲み、好きな酒を手に乾杯を。やはり年末はこのような機会が増えると感じるのは、昨日も情報センターの面々で年納めの忘年会めいた宅飲みをやっていたからだ。焼酎を一口、そしてサトイモとイカの煮物を。うん、美味い。

「そう言えば高ピー、今日バイト休みだったの?」
「ああ。クリスマスとかいう死線は越えたからな」
「拳悟は?」
「俺は今日仕事納めだったよ」
「おお〜、お疲れ様です」
「だからあと2日はギター三昧。練習しないと。ねえ高崎」
「それな」
「えっ、拳悟と高ピー一緒になんかやんの!?」
「大晦日にあるライブイベントに招待されたんだよ。内輪でわちゃわちゃするライブみたいだけどね。リンちゃんも同じライブに出るんだって」

 それぞれの活動報告や、これからの展望について語り合う時間だ。そもそもが常日頃から一緒にいるような間柄でもないし、人となり自体よく知っているというワケでもない。特に高崎と浅浦に関しては。川崎は卒業後もたまに会っていたし、伊東は1年の頃の、越野は2、3年の時のクラスメイトだから少し知っているが。
 話を聞いていくと、大晦日までの予定は伊東と浅浦のそれが結構重なっているようだった。年越しそばは浅浦の家に伊東の家の面々がお呼ばれになるとか、バイトのシフトもほぼほぼ重なっているなど。伊東と言えば宮ちゃんの顔が浮かぶが、あのスラッシャーは……ああ、今の時期はコミフェか。

「リン君、リン君の持って来たヤツ分けてもらっていいか?」
「ああ、飲むといい」
「あざす。ところでリン君、あの性悪は生きてやがるか?」
「ああ。腰痛を拗らせて調子悪そうにはしていたが、基本的には変わらん」
「そうか。つかアイツ腰痛持ちなのか」
「夏前にぎっくり腰をやらかしてな。それから少し癖になっているようだ」

 石川はコミフェにサークル参加したいというようなことを言っていたが、腰痛を拗らせた結果作業ペースが著しく低下しサークル参加を諦めたそうだ。一般参加も今回は見送るそうで、合同サークルを結成するなどしている相方におつかいを託した。
 コミフェと言えばスラッシャーの宮ちゃんだが、伊東との間には「趣味には相互不干渉」というルールを設けてあるそうだ。遠征に向けて忙しくしているそうだが、伊東はその様子に触れるでもなく気を付けて行って来いよと見送るだけだという。理解し得ん趣味に対する程よい距離感だろう。

「リン君は……何だっけ、バイト先が大変だったとかっていうのは解決したのか」
「ああ、美奈の協力で何とかな」

 情報センターにまつわる例の件に関しては、バイト先が大変で、ということだけを高崎と川崎に話していた。

「繁忙期だったとかか?」
「いや。女子スタッフが他校生の男に付きまとわれていてな。センターの陰で出待ちをすることが続いていたんだ」
「ストーカーみたいなのがいたのか」
「ああ。その男が向島大学の放送サークルの人間だというから、美奈の協力で人脈を辿ってだな」
「向島の男…? もしかして、そんな非常識的なことをするのは三井とかいうイタリア系の顔した背の高い野郎か」
「その男で間違いない。もしや、界隈では有名なのか」
「有名も何も。ちょっと女に優しくされただけで惚れるのは当たり前。インターフェイスの女に告白すること数知れず、連敗記録だけを無様に伸ばし続けた奴だ」

 そんなところにまで出没してやがったんだな、と高崎は呆れた顔を隠さない。どうやら奴は向島エリアの放送サークル界隈ではかなり有名な男のようだ。高崎もサークルの現役時代は妙な絡まれ方をしたり、緑ヶ丘のサークルが奴による被害を受けたりと頭を抱えていたそうだ。

「だけど、よくアイツが向島の奴だってわかったな」
「スタッフに放送サークルの奴がいてな」
「ああ、なるほど」
「向島だったら友人がいるからと美奈が紹介してくれて、奴に対する対処法を習ったりだな」
「美奈のダチっつったら菜月か」
「ああ。美奈も含めた3人で上豊葦駅の近くにあるラーメン屋でおでんを食いながら会議を開いてだな」
「上豊葦にそんなトコがあんのか。えっ、何ていう」
「サンパチラーメンというプレハブかテントのような作りの簡素そうな店だが、味は良かったぞ。大根と焼酎の組み合わせが絶品だ」
「今度行ってみるわ」

 ――などと言っていたら、風呂吹き大根だよーと伊東が新しく持って来たので何とタイムリーなことかと。風呂吹き大根と、焼酎。実にいい組み合わせだ。大根を運んでからも、伊東は台所で忙しなく働いている。

「カズ〜、カズも座って落ち着きなよー」
「俺はまだまだ作りたい料理があるからさ、それが落ち着いたら座って飲み食いするよ」
「よくやるねー」
「拳悟、伊東をナメんなよ? コイツは宅飲み料理ガチ勢だぞ」
「高崎の胃袋が完全に掴まれてることだけはよーくわかった」
「いや、実際美味いぞ。まさか伊東にこんな特技があったとはな。高校の頃は思いもしなかったが」
「大学入って猛練習したからね。つか、ほっとくと慧梨夏が食わねーからさ」


end.


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星港高校勢の忘年会です。美容師の拳悟は今日が仕事納めだったようです。高崎はまだまだバイトが忙しいようで。
年末年始は正月の原風景のような生活をするのがいち氏と浅浦雅弘ですが、それはきっと来週が本番かしら。買い物からスタートだ。
ところで、イシカー兄さんの相方が件のスラッシャーであることはリン様はご存知なのかしら。

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