エコメモSS

□NO.3101-
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■夢は無限大のままで

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「のーさーかーくーん」
「ったく、いい加減そのノリやめろ」
「私と野坂さんの仲ではありませんか」
「あっ、こーた君いらっしゃい! ええと、そっちの子が話に聞くイケメンの? あらやだ、本当にイケメン」
「えっと、小林泰弘です! 今日はお邪魔します!」
「やっちゃんは私の高校時代の友人で、少し前に野坂さんと意気投合して仲良くなったんです。あ、お母さん、こちらつまらないものですが」

 私の暗黒面の事情により、本日から少しの間野坂家にお邪魔することになっています。暗黒面の事情というのは、弟カップルとその家族にまつわるものです。弟の彼女の家がこの冬休みに南国バカンスに行くというので神崎家も誘われたんですね。うちの家族たちはそれはもう大喜びだったんですが、私は固辞しましたよね。
 ただでさえ普段から弟とその彼女はふすまで仕切られてるだけの部屋でいちゃいちゃいちゃいちゃしていやがりますからね。そんな物を普段から聞かされているのに南国バカンス!? 逃げ場がない場所でそんなの、完全に堕ちてしまいますよ。というワケで、一人でお留守番をすることになりましたとさ。
 自分の家で大人しく留守番をしていても良かったんですが、どうせ野坂さんとはいつものノリでぐだぐだと遊ぶことにはなっていたと思うので、いっそのこと家にこもりますかという話になったんですね。ご家族も快く受け入れてくださって、お泊まり会の開催になったワケです。

「みんなどうせ夜遅くまでフミの部屋でネットかゲームよね。布団もフミの部屋でいい?」
「はい、ありがとうございます。私を他の部屋に入れるともれなく騒音でご迷惑をおかけしますので、野坂さんのお部屋でお世話になります」
「こーたのいびきと歯軋りはガチなんだよなー……」
「えっ、やっぱこーたってウルサいの?」
「ウルサいもウルサい。合宿をやればこーたがウルサくて他大学さんから苦情をもらうレベル」
「野坂さんの寝相だって大概じゃないですか。私は嫌ですからね、野坂さんに蹴飛ばされて痣を作るのは」

 何やかんや客間から布団を運び、野坂さんの部屋へ。野坂さんはとにかくめっちゃ掃除したから2人くらいは大丈夫なはずなんだけど、と予防線を張っています。私ならともかくやっちゃんを入れるとなるとそれはもう気を遣いますよね、いろいろ。ウザドルと憧れのイケメンの扱いが天と地なのは当然でしょう。

「すげー! 野坂君部屋めっちゃきれいにしてんね!?」
「めっちゃ片付けたんだよ」
「そうですね、確かにいつもより綺麗にしていますよ。いつもだったらゲームだって外に飛び散らかってますし、本もそこらに積んで寄せてるくらいですからね」
「こーた〜…! お前なあ〜…!」
「でも、1人と2人だったら片付けにかける気合いも変わってくるよね! うわー、応用情報の勉強してんだね! すげー、おー、Javaに、Cに、VBに……えっ、めっちゃいろいろやってんね」
「その辺は授業でやったりもするから」
「すげーなー」

 やっちゃんは野坂さんと同じ情報系の学部ということもあって、野坂さんがどういう勉強をしているのかにも目を輝かせています。菅野先輩曰く、星ヶ丘ではバカキャラになってしまっているそうですが、元々はやれば出来る子。やる気になるまでが大変なんだそうですが。
 本棚やゲーム・CDラックなどをくまなくチェックするやっちゃんの無垢なこと。私だったら何か弱みを握ろうとするんですけど、やっちゃんは純粋に野坂さんが何に興味があるのかが大事なようです。会話の種が欲しいんでしょう。野坂さんもそれには満更でない様子です。

「フミー、ちょっとー」
「はーい。いいかこーた、絶対にどこでも勝手に開けたり漁ったりすんなよ!」
「やだなあ野坂さん。わかってますよ」
「大丈夫野坂君、俺が見張ってるから」
「あっでもパソコンはつけていいです?」
「つけるだけなら可」

 お母さんに呼ばれ野坂さんが部屋を出ると、私はいつものように野坂さんのパソコンを立ち上げます。野坂さんの場合、弱みはパソコンの中の方により多いはずですからね。個人フォルダやブックマークを見なければさほど問題はないでしょう。

「うわっ、壁紙すげえ」
「前と変わりましたね。SDX仕様になってますよ」
「でも4種の中から選んだのがソルさんっていうのがすごい野坂君って感じする」

 いつの間にか、デスクトップの壁紙がゲーム実況グループ・SDXが配布していた物に変わっていました。メンバー4人をイメージしたデザインになっていたと思うのですが、野坂さんが選んだのは男前の社畜キャラで、プレイヤースキルの凄まじいソルさんという人のモデルです。

「やっちゃんもSDXはご存じで?」
「あれっ、泰稚さんから聞いてないんだ」
「菅野先輩ですか?」
「えっ、ガチで聞いてなかった感じ?」
「聞いてないですよ。聞かなかったことにしますから言いましょうか、やっちゃん」
「泰稚さんも含めたウチの先輩なんだよ、SDXのうちコンとチータが」
「あ〜、そう言われればコンちゃんからそこはかとない菅野先輩臭がしますよ?」
「で、俺も泰稚さんの助手として動画編集とかシステム関係の手伝いをしてるんだ。テストとか、カメラ役とか」
「へー、そうだったんですね。で、その話は野坂さんには?」
「うーん、黙っといて。ネット上だからこその夢もあるし」
「そうですね。まさか推しがリアルな先輩だったときの衝撃ですよ」
「多分泰稚さん驚くと思う、あの人らコン推しあんまいない体でやってるから」

 ネット上だからこその夢というのはわかりますね。私だってVtuberや実況者の中の人を暴いてどうこうしたいということは思いませんし。実写動画を出してるなら別ですが、そうでもなければリアルを求めるのはナンセンスでしょう。ネットだからこその夢とか、フィクションだからこその面白さや倫理、いろいろあるんですよ。

「はい、とりあえず。粗茶ですが」
「粗茶と言いながらもお茶請けを見ればわかる高級感! さすが、安定の野坂家ですよ」
「えっ、こーたこれすごいお菓子なの?」
「私などの一介の学生がそう気軽に手を出せるヤツじゃないです」
「すげー!」
「こーた、余計なモン開いてないだろうな」
「開いてませんよ。壁紙の段階でやっちゃんとSDX談義に花が咲いてただけですぅー」
「えっ!? 小林君もSDX見てるの!?」


end.


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年末の野坂家に今年らしい要素でコバヤスが遊びに来ました。ノサママさんはイケメンが好きらしい。この親にしてこの子か。
神崎の事情もちょっと気の毒ですね。襖で仕切られてるだけで壁も薄いところでいちゃいちゃされたらたまったモンじゃないです
で、コバヤスとSDXの話も少し。これをやっていくことで1月からのこの界隈の話に踏み込んでいけるよ!

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