エコメモSS

□NO.3101-
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■広げる接点

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「へえ、本当に駅近だな。こんなトコがあるのか」
「豊葦市内でも、わからんことはあるのだな」
「つって豊葦ってクソ広いじゃねえか。俺がわかるのは精々大学周辺と配達で行くトコと豊葦市駅周辺くらいだからな」

 忘年会の時にリン君から話に聞いたサンパチラーメンという店に来てみた。一応ナビとしてリン君を誘ったら快く返事してもらえたので、まさか実現するとは思わなかったリン君とのサシメシだ。リン君の話ではおでんと酒を一緒にやるのが美味かったそうだけど、如何せん二輪だとそれは叶わないのが残念だ。
 上豊葦駅という星港鉄道の駅から徒歩2分くらいのところにある、プレハブとも言い難いテントかビニールハウスかのような造りの店だ。赤提灯が下がっていて、駐車場にしている砂利のスペースには簡素な看板に「サンパチラーメン」と書かれている。綺麗な店とはお世辞にも言えない。
 向島の三井が星大のPC自習室を荒らし回っていたというどこからツッコめばいいのかわからない事案に、当時バイトリーダー業代行をやっていたリン君は苦心してあれこれ考えていたらしい。結果、人脈がいろいろ繋がって菜月にたどり着いたそうだ。菜月から三井の取説を聞こうと入ったのがこの店だった。

「つかガチで砂利の上じゃねえか」
「それも夜になれば提灯の明かりと相俟って雰囲気を演出する。夏がビアガーデンなら冬は屋台、あのような感じだ」
「一理ある」
「このようにダルマストーブの上にヤカンで湯を沸かすのは、寒冷地ではごく日常的な光景だそうだ」

 ストーブの上ではシュンシュンとヤカンから湯気が出ていて、ビニールで外と仕切られただけの空間の割には案外暖かい。砂利の上に置かれた丸イスに座っているだけとは思えない。コンセントに繋ぐ必要のないストーブの知識はあっても、使っているところを見る機会はそうない。
 ごく普通のラーメンとおでんをいくらか注文して、しばし待つ。とは言えリン君とは何を話せばよいやらさっぱりわからない。共通の話題が無いことはないが、そこからどう繋ぐかという問題もある。同じクラスになったこともなければ共通のコミュニティにいたとかでもない。いつだって共通の知り合いがいる程度の間柄でしかない。

「しかし、豊葦などあんな機会でもなければ来ることはなかったからな。貴重な経験ではあった」
「まあ、西海なら大体星港までで完結するもんな。つか、あのクソ人見知りが美奈の紹介と言えよくリン君と会ったな」
「菜月のことか。まあ、以前猫カフェで軽く顔を合わせていたというのもある」
「あの動物嫌いが猫カフェなんか行くのか」
「向島大学周辺には猫が多いらしい。通学路にいる子猫が可愛かったが待てど暮らせど出て来んと。それで、確実に躾られた猫と戯れるためにと同じサークルの後輩を強制連行してきたそうだ。オレと美奈は石川がマリー以外の猫にも嫌われるのかという検証実験のために来ていたのだが」
「ああ、なるほどな」

 強制連行されたサークルの後輩。っつーと、野坂か。何にせよ、そこで一度顔を合わせていたこと、リン君と菜月が人に懐かないことで名高い美奈の愛猫に懐かれている同士という共通点があることなど。それらを加味して美奈がリン君なら菜月に会わせてもいいとゴーサインを出したそうだ。
 と言うか美奈も大概菜月のモンペみたいな感じだからな。いや、どこぞの麻里さんとかいう女傑が一番恐ろしいのには違いないが、美奈も美奈だ。何だアイツ、モンペを引き寄せやすい体質なのか? 菜月のモンペたちとは似て非なるがちえみも別のベクトルでめんどくせえしな。
 大体麻里さんは「お前が菜月に手を出さないから菜月が男がどんなモンかを理解しないし警戒もしない」とか言って責任転嫁してくるが、アンタが「菜月に手ぇ出したら殺す」とか言うから手が出ねえんだろうがよ。手を出しても殺す、出さなくても殺すって。俺に待つのは死のみじゃねえか。ま、その辺も野坂にバトンタッチしてだな。

「高崎、お前は大盛りか」
「ああ、サンキュ。つかリン君普通盛りで大丈夫なのか」
「オレはこの後予定があってな」
「そうか。何か、忙しいのに付き合わせて悪い」
「いや、構わん」

 いただきますとラーメンをひとすすり。ん、普通に美味い。先につついていたおでんも、酒が飲めたらどんなに良かっただろうかといういい味で。リン君もあの日、今の俺と同じように思ったから美奈に運転を代わってもらって飲んだそうだし。これは納得。隠れた名店だ。

「実は、その用事というのがこっち方面でな。高崎、悪いがこの後向島大学近くのコンビニで下ろして欲しい」
「リン君がこっちで用事って変な感じするな。一応聞くけど、まさか菜月じゃねえよな?」
「フッ。心配は要らん」
「心配とかじゃねえよ」
「年末の音楽祭があったろう。あの場で、CONTINUEのスガノとカンノとはゲームの話で意気投合してな」
「CONTINUE……ああ、アイツらか」
「今日は奴らと音楽ではなくゲームをやろうという話になっている。奴らの拠点が豊葦らしくてな」

 長谷川の気紛れで開かれた妙なイベントも何かしら生み出しはしていたらしい。俺なんか睡魔が来ないようにバーカウンターの向こう側で働いてばっかだったっつーのによ。それも、誰から頼まれたワケでもねえのに勝手にやってたっていうな。だからフロアで人と喋ることもそんなになかったもんな。

「結局あの音楽祭って何だったんだろうな」
「ああ、あれはオレのバイト先の先輩に対する嫌がらせのために企画された行事だと聞いているが」
「嫌がらせ!?」


end.


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そういやそんな話もしてたっけなあと、高崎とリン様のサシメシです。日曜日のネタがなかったんだ。
菜月さんの引き寄せやすいのはモンペと貢いでくれるお財布ですかね。高崎が麻里さんに「じゃあどうしろって言うんだ」的なことを思ってもしゃーない。
とうとう1月なので、リン様がスガカンとゲームをしたりして人脈がぐわんぐわんと動いてくるよ! リン様は通年で強いけど、何気に冬の強キャラよ

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